はじめに

訪問入浴介護の現場で試す

高額の初期コストのかかる量産型へ移行する、転機はあったのでしょうか。尋ねると、イノフィスのマッスルスーツは早い段階から量産型に移行することを想定していたため、そういった転機のようなものはなかったといいます。

「少しずつ段階を経て、現場のニーズに合うもの、実際に使えるものへと改良を加えてきました。ただ、(このタイミングで)量産型に切り替えられたのは、これまで培ったノウハウがあったからです」

小林教授がマッスルスーツの開発に着手したのは2000年。段階を経て進化を続けてきた開発も、2010年から訪問入浴介護を行うアサヒサンクリーン(静岡市)の協力を得て現場の声を取り入れるようになったことで、急速に進展します。

「現場で試してもらい、ニーズに合うようにチューニングしていったことで、はじめて“使える製品”になりました。(革新的な装置を開発しても)実際に使ってもらえなければ意味がありません」と小林教授。厳しい表情でしたが、Everyの反響について聞くと、「自分や親のために使いたいという声が増えていて、うれしい」と笑顔を見せてくれました。

値段が高いと「関係ない」と素通り

「結局、値段が高ければ『自分には関係ない』と素通りされてしまうんです。手に届く価格になれば、反応は全く違います。一般の方が真面目に『うちでも買おうか』と自分ごととして考えてくれるようになりました。老老介護や農業をしている高齢の両親にプレゼントしたという声や、家で使うために買ったという声を何件もいただいています。

マーケットができていないので、どの程度売れるかが見えない不安はありましたが、困っている方がたくさんいることは事実です。困っている方が『使いたい』『これなら使える』と思えるものを作れば、ゆくゆくは売れるだろうという信念を持ってやってきました。ユーザーの声を聞く開発を一貫して続けてきたので、一切迷いはなかったです。それでものが売れれば、マーケットもできますから」

さらに「エンジニアリングは、学術や研究の範疇で終わらせない姿勢が重要」と続けます。低価格が実現したのは、ユーザビリティに徹する開発者の姿勢が大きく関係していました。低価格でグッと身近になったマッスルスーツは、身体能力だけでなく、市場も拡張する旗手となりそうです。

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