はじめに

将棋や囲碁の世界では「定石(定跡)」と呼ばれるものがあります。おそらく定石をマスターしなければ強くなれないでしょうが、それにとらわれていると落とし穴にはまることもありえます。

そのさじ加減が難しいのは為替市場、とりわけドル円相場も同じかもしれません。何しろ、足元の相場の動きは定石とは真逆のものになっているのですから。


ドル円相場における定石とは?

ドル円相場の場合、日米金利差との連動性が高いという、わかりやすい定石(セオリー)があります。「お金は金利の低いほうから高いほうへ流れる」という考え方はもっともであり、日米金利差が縮小すれば円高ドル安、拡大すれば円安ドル高というイメージが容易に湧きやすいといえます。

ただ、ひょっとして金利差の拡大・縮小は現象面に過ぎず、重要なのは市場センチメントかもしれません。というのも、両国の金利差が縮小するケースは、世界的に安全資産の国債が選好されるようなリスクオフ環境であることが多いからです。

つまり、日米金利差の縮小が円高ドル安を招くのではなく、市場センチメントがリスクオフに傾斜することで、円高ドル安と日米金利差縮小が同時に発生するという解釈も可能でしょう。

いずれにしても、ドル円相場と両国の金利差が連動しやすいというセオリーは、市場参加者の中でかなり共有されているのではないでしょうか。

日米金利差ではドル円の値動きを説明できず

前置きが長くなりましたが、足元のドル円相場は前述のセオリーに反した動きとなっています。すなわち、日米金利差が縮小しているにもかかわらず、円高ドル安が進んでいないのです。こうした状況をいぶかしく思っている向きも多いのではないでしょうか。

しかしながら、過去を振り返ってみると、両者が連動しないのは決して珍しいことではありません。たとえば、2014年の終盤から2015年の年初にかけては、日米金利差が拡大していないにもかかわらず、円安ドル高が進行。日米長期金利差の水準は現在と大差ありませんが、当時は120円超まで円安ドル高に振れています。

金利差とドル円

逆に、2018年は金利差が拡大し、節目の3%を超えましたが、一向に円安ドル高が進まず、おおむね110円台前半から半ばでモミ合いました。麻生太郎財務相は同年3月の国会答弁で「これまでの歴史を見ると、米国との金利差が3%に達すると必ずドル高円安に振れる。例外はひとつもない」との見解を示しましたが、やや不発に終わった印象です。

もちろん、日米金利差とドル円相場の値動きが連動している時期もありますが、いつもそうとは限らないということを強調しておきたいと思います。

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