はじめに

用意周到なマニュアルの一部を公開

最後に、どれだけ密輸というものが、業者の側で用意周到に行われているのかを話したいと思います。

今回、SNSを通じて指示された時計の買い付けマニュアルを入手しました。ここには事細かに税関を騙すための方法が書かれています。もしこうした指示が仕事先からなされた場合には、絶対に受けないようにしてください。

出発前の確認事項として、「クレジットカードが使用できるかを確認」の他に「消えるボールペン」や「腕に止める用のバンド」の用意を促しています。これらは、何のために必要なのか、おわかりでしょうか?

マニュアルでは、お店からブランドの高級時計を購入するにあたり、時計本体だけではなく、冊子や木箱、ケースなども必要と、図解でわかりやすく説明しています。

そして重要項目には「ギャランティカード」とあります。これは保証書のことで、本来、ここには購入者の名前を書かなければなりませんが、マニュアルには「サインのところには、できれば何も書かずに購入する」「もし書く場合も、消せるペンを使うこと」が指南されています。

つまり、購入後、名前を消すために消えるボールペンを用意させているのです。もし通常のペンで名前を書いてしまうと、数万円のペナルティが課せられます。また、ケースや木箱は発送し、冊子や保証書などは、雑誌や財布に隠して国内に持ち込むように指示されています。

税関を通る際には、時計を腕にはめて、リストバンドなどで覆い、その際には保護シールは剥がさないように指示しています。後々に転売するために、時計を傷つけず、保護シールが貼ってあることを税関に知られないために、リストバンドを事前に用意させているのです。

この資料は使用後に破棄するようにとありますので、証拠隠滅も図っています。現代の振り込め詐欺でもそうですが、詐欺の末端である現金などを取りに行かせる「受け子」に、SNSを通じてマニュアルを送って悪事をさせますが、同様な手法をとっているのがみて取れます。

恐怖心を抱かせ行動させる

このマニュアルは、本当によくできています。図解でわかりやすく手順を理解させるだけでなく、ペナルティがある記述を載せて、バイヤーに罰という恐怖心を与えています。まじめな人ほど、税関を騙すという罪の意識よりも、マニュアルをしっかり覚えて仕事をしなければと思うことでしょう。

なかなか求人募集の記事を読んだだけでは、実際の仕事の内容はわからないものです。

今回の買い付け業者に限らず、違法行為を指示するような悪徳業者も多くいますので、くれぐれも最初に説明を受けた仕事と内容が異なり、違法行為がみえた時には「仕事はしません」とはっきりと断り、身を引く。

その勇気が、自らに迫る危険から、火の粉を払うことにつながります。

この記事の感想を教えてください。