はじめに
通貨安競争は一時休戦か
さて、話は変わりますが、最近のトランプ米大統領のドルに対する発言は興味深いものがあります。以前はドル高に嫌悪感を示すような発言が目立ちましたが、コロナショック以降は発言が様変わりしています。
具体的には、3月23日に「米ドルはこれまで他の通貨に比べて強い立場を保ってきたが、貿易を難しくもしてきた」、「しかし、ドル高であることはなんとなくいい気がする」と述べています。また、その後に「ドルは断然最強だ、ユーロは取るに足らない」とも発言しています。
米国は伝統的に「強いドル政策」を掲げてきました。経常赤字と貿易赤字という「双子の赤字」を抱えており、海外からの資金流入が金融市場の安定に必須だからです。ドルの価値が下がっていけば、海外投資家は安心して米国に投資することができません。
結果、多額の米国債の消化に支障をきたすことがあれば、金利が上昇し実体経済にも当然悪影響が及びます。
現在は、FRBが無制限に米国債を購入することを表明していますので、海外資金の流入がなくても利回りが急上昇することはないでしょう。ただし、そう長く続けられる政策ではありません。FRBの役割縮小とともにやはり国債の安定消化には、海外マネーの流入が必要になるはずです。
コロナショックで巨額の財政支出が不可避の状況ですから、これまで以上に「強いドル政策」が求められることになりそうです。各国とも事情は同じで、もはや世界的な通貨安競争は終わったと言ってよいかもしれません。ただし、日本の場合はまだ国内の資金で国債の消化が可能とみられ、多くの国とは事情が異なりそうです。
なお、トランプ大統領は米国債市場以上に株式市場への海外資金流入を目論み、強いドルに言及している節があります。株価をできるだけ高水準に保つことが今秋の大統領選に向けて重要であると考えているのではないでしょうか。もっとも、米国大統領選挙が強いドルを望めば、それが実現するほど為替市場は単純ではないでしょう。
一方、これだけ世界中が未曽有の金融緩和を行っている以上、仮に新型コロナウイルスが収束すれば、空前のバブルが訪れる可能性があります。その際、避難通貨とされる円は敬遠されることが予想されます。ドルだけでなく、多くの通貨に対して円安が進む展開がイメージできます。もちろん、その前に乗り越えるべき大きな危機が立ちはだかっていることは言うまでもありません。
<文:投資情報部 シニア為替ストラテジスト 石月幸雄>