はじめに
ヒト、モノ、カネの制約が大きな要因
もちろん、日本のこれまでの対応に全く問題がなかったわけではないでしょう。緊急事態宣言を継続せざるを得なかった一つの要因は、他のアジア諸国のように新規感染者の増加に歯止めをかけられていない点です。
これは、3月以降の海外からの帰国者など新たな感染源が増えたことへの対応が不十分だった、外出などの自粛が徹底されなかった、が要因でしょう。この点は、後知恵かもしれませんが、政府、行政機関の判断や対応が正しくなかったと思われます。
ただ、それよりも正体不明な感染症拡大という危機時に備え、ヒト、モノ、カネを供給する公的部門が厳しい予算制約を課せられていたこと、が危機対応が不十分にとどまった根源的な問題と筆者は考えています。
先に述べた、3月の米欧からの帰国者への対応が不十分だっただけではありません。4月には東京圏などで重篤者が自宅待機を余儀なくされていたことなどが明らかになるなど、 PCR検査などがボトルネックとなりリスクが高い患者への医療提供が滞っていたようです。
医療・行政機関の運用が硬直的だったなどの問題はあるのでしょうが、ヒト、モノ、そしてカネの制約があったことが最も大きな要因だった、と筆者は考えています。
そもそも、先に述べたように、米欧のような深刻な危機とは異なり、他のアジア諸国同様に日本では死者や感染者は相対的には抑制されています。にも関わらず、ICU、病床、マスクなどの医療用具が不足するに至り、医療体制崩壊のリスクを訴える現場の声が強まる一方でした。
日本の医療制度に非効率な部分があるという問題はあるのでしょうが、そもそも危機時に医療体制を支えるヒト、モノ、カネが全般的に不足していたのでしょう。つまり、緊縮的な財政政策が、日本人の命を預かる医療体制を脆弱にしてきたという隠れた問題が、今回のコロナ禍であらわになったと考えます。