はじめに

必要な家庭に自動給付

第二に、個人に対し自動給付される特別給付金があります。支援が必要な家庭に対し、5月15日に1回のみ、150ユーロ(約1万8,000円)が振り込まれるというもので、金額は子供の数に合わせて増加します。

「どうやって支援が必要な家庭を見つけ出し、自動的に給付するのか?」と、不思議に思うかもしれません。対象者は、現時点で月々の所得手当を受けている人、または失業手当の受給者。

つまり、毎月の経済状況をネット等で該当機関に申告している人たちですから、行政サイドにも彼らの現状は明らかなのです。給付は、月々支給されている手当に上乗せする形で振り込まれます。このようにして、必要な家庭に、自動的に、素早く補償が届けられています。

自治体による食費補助金も、やはり同じ方法で自動給付されました。たとえばパリ市は、学校給食を食べることができなくなった子供への支援として、子供1人当たりの金額を割り出して4月中旬に振り込みを行っています。こちらも所得手当や家族手当の受給者が対象でした。

給付や補償を惜しまないのは「伝統」

これらの給付金はどれも急を要する性質であることが強調され、迅速に支給されています。通常、フランスの行政システムは提出書類が多く複雑で、時代遅れなまでに時間がかかると悪評高いのですが、新型コロナウイルス対策の給付金に関しては迅速でした。

5月10日発売の新聞JDD紙に掲載された世論調査によると、「外出制限で最も経済的被害を受けた分野への政府の援助」に対し、60%のフランス国民が「信頼している」と答えています。

このほか、商業施設やレストランなど、休業を強いられた企業の社員には給与の8割にあたる一時失業手当が適用され、この新型コロナウイルス衛生危機の最中に失業手当や障害者手当の給付終了が重なってしまった人には3ヵ月の延長が保証されるなどの対応もありました。

外出制限は緩和されたが飲食店の再開はまだ先外出制限は緩和されたが飲食店の再開はまだ先

ルメール経済・財務相が企業に協力を求め、実現したことも少なくありませんでした。大手スーパーはレジ職員に対して1人当たり1,000ユーロ(12万円)のボーナス、大手不動産会社は大型ショッピングモール内の店舗の家賃取り消し、銀行は飲食店への災害保険適用、など。民間企業であっても、連帯の意思表示をしています。

金銭以外の援助もあり、たとえば滞在許可証の期限切れが迫っている外国人には6ヵ月の期間延長が。自治体によるマスクの無料配布も行われています。現在、毎週70万件が可能になった新型コロナウイルスPCR検査は、健康保険が当てられ無料です。

これら給付金がヨーロッパ諸国の中でも手厚いことを、フランス国民はよく理解しているようです。フランス政府が給付金や補償を惜しまないのはなぜでしょう。

私のこの問いに、あるフランス人経済ジャーナリストは「フランスの伝統だ」と答えました。国民は国家に税金を納め、国家は国民を守るというシンプルな基本が、確かに存在しています。一人の日本人の目には、80%と言われるフランスの投票率も、無関係ではないように見えるのです。

Keiko Sumio-Leblanc / 加藤亨延

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