はじめに

大事な話を聞くときの環境は間違えない!

私は数多くの講演に登壇してきましたが、最後に「何か質問はありますか?」と参加者に向けて尋ねると、まず質問は出ません。参加者が20〜30人程度の少人数ならば質問が出ることもありますが、数百人、最大1000人など人数が多ければ多いほど、大勢の前で質問をすることは躊躇される傾向にあります。

これは、自分の質問を他の多数の参加者が聞くので、「『そんなことも知らないの?』と思われたら恥ずかしい」というように周りの目を気にしてしまうからです。いわば、集団圧力の影響です。

刑事は、基本的には取調室という個室で、誰にも聞かれないように話を聞きます。しかし、軽微な犯罪で共犯者が多く、任意の取り調べを行なう場合などは、会議室などの広い部屋で一斉に話を聞くケースもありました。そもそも、小さい警察署ですと、取調室の数が足りないので、会議室をパーテーションなどで仕切り、簡易的につくった取調室で事情聴取をします。

こうしたケースだと、簡易的な仕切りはあるものの、隣のテーブルの取調べや周囲の人が気になって、取調べを受ける対象者はなかなか本心を話してくれませんでした。これも、集団圧力の影響です。

つまり、もしあなたが会社の部下から本心を聞き出したいと思ったら、周囲に誰もいない状況で聞いたほうがいいということです。周りに他の社員がいて聞き耳を立てていたら、なかなか本心を話せないものです。とくに、大事な話を聞き出したいと思ったら、そういった点にも配慮してください。

相手の悩みは「自分事」として考える

あなたの友達が自分の家族の悩み事を話し始めたとしましょう。今までそんな話を聞いたことがなかったので、あなたは驚きましたが、聞いているうちに「私にもそんな経験があるし、よくわかるよ」と思って自分の経験や悩みも友達に話してしまった、こうした経験があるかと思います。

これは「自己開示の返報性」という効果です。相手が自己開示してくれたので、それに合う深さの自己開示を自分もしてしまったというわけです。

このように、自己開示というのは相手に伝染します。「相手が心を開いてくれたから、自分も開こう」というのが人間の心理です。ですから、こちら(聞き出す側)から心を開いて接するということが大事なのです。

私は取調べでは、相手より先に自己開示するように心がけました。もちろん、開示できる範囲ではありますが、趣味や家族構成、学生時代に流行ったこと、好きな芸能人など割と話しやすい話題から開示しいくと、そんなことを唐突に話す刑事はなかなかいないので、「この刑事さん、おもしろいな」と思われます。そうなれば、一歩前進です。

ここで、自己開示する際には、相手の話を聞いたうえで「自分事」で考えて自己開示することがポイントです。私は、子供と話をするときも「自分事」として捉えて話すようにしています。

例えば、息子が「彼女にフラれた」と自己開示したとします。それを聞いて「なんでフラれたんだ? また新しい彼女を見つけたらいいよ」というように、興味もなく他人事のような言い方で返すと話は続きません。ですから、「俺も高校時代ねぇ、そんなことがあったなぁ。俺の場合は……」と自分事として捉えて自己開示するのです。

また、悩みを相談されたときも「俺だったらどうするかな?」というように自分事として考え、それを自己開示します。そうすると、息子は隠し事もなく、なんでも話してくれました。私が自分のことのように捉えて息子からの相談に乗ったので、彼自身もさらに自己開示しようと思ったわけです。こうなれば、会話がどんどん広がっていくものです。

ウソや隠し事を暴く全技術 森透匡 著

ウソや隠し事を暴く全技術
詐欺、選挙違反、贈収賄事件などで、2000人以上の犯人や参考人の取調べや事情聴取を担当した元知能犯担当刑事が、過ち・失敗を犯した人のウソや隠し事の見破り方から、証拠の集め方・使い方、ヒアリング方法まで、疑惑を暴く方法のすべてを実践的に教えます。

(この記事は日本実業出版社からの転載です)

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