はじめに
悲しき日本の自動車税制
すでに60年経過しているクルマですから、その程度は千差万別です。中古車価格の相場を見ると150万円から200万円あまりという感じでしょうか。しかし、懐かしさやファッションだけで気軽に乗れないことは、今回、オーナーさんのご厚意により同乗させて頂き、よく理解しました。
握りの細い大径のハンドルとシンプルなインテリアがむしろ新鮮です
ここに登場している白いR360クーペは「超極上」の1台です。購入価格は相場を大きくオーバーするはずで、オーナーさんに聞いても口ごもりますが、あくまで予想では300万円台はするでしょう。その代わりしっかりとしたメンテナンスを施してありますから、2人の大人を乗せたまま、元気よく都内を走りました。試乗撮影当時は都内で真夏日を記録していましたが、エンジンがぐずることは一度もなく快調に走ってくれました。まったくオーバーヒートの様子は見られませんでしたし、オーナーさんにも不安なそぶりは見られません。
「それでも信号待ちの時はドキドキしますよ。エンジンが止まったらどうしようってね」と笑います。確かにアクセルを微妙に調整しながら信号待ちをしています。エンジンを4千回転ぐらいまでガンガン回しながら走りますから、時速40km/hで流すにも、それなりに騒々しい感じはありますが、後ろから来るクルマもなんとなく大目に見てくれる感じがして煽られることはほとんどありませんでした。
そんな市街地走行ですからストップ&ゴーが連続すると、燃費は12~14km/Lぐらいだそうです。一方で高速を走ると20km/Lはクリアします。あとは空冷エンジンですから、冷却にとってはエンジンオイルがより大きな役割を果たすことになります。減りが早いので継ぎ足し用のオイルを準備したりと、それなりに大変です。
排気量356cc、16馬力の強制空冷V型2気筒4ストロークOHVエンジンは基本がアルミ合金製と最先端のものをリアに搭載。ワーゲンのビートルやスバル360と同じRR(リアエンジンリアドライブ)方式
年間の経費は、故障や大きな修理がなければ年間10万円ほどだといいます。
ただ、日本では古い車ほど維持費が高くなる税制があります。環境のためにも経済のためにも新型車に乗り換えてほしいという狙いがあるからです。新車登録をしてから13年以上経過した車は自動車税15%増税。さらに自動車重量税も軽自動車で20%(普通乗用車は39%)の増税となります。つまり、最新の軽自動車の得られる恩恵とは無縁ということになります。
「趣味のクルマなんだから増税もやむなし」という意見があることもわかりますし、理解できる部分もあります。しかし、日本の自動車保有台数のうち、どれほどの台数が旧車と呼ばれるクルマが占めているでしょう。車文化に対して日本とは価値観の違うヨーロッパなどでは旧いクルマほど“文化的な意義”を評価して税金が安くなる国もあります。当然社会はそうした価値観をしっかりと納得するだけの土壌があります。久しぶりに魅力的な旧車に乗せてもらい、色々と考えさせられました。
それともう一つ試乗してわかったこと。街中で乗っていると、注目度が高すぎて恥ずかしい……。