はじめに
リスクオン環境ではドル安が基本
では、ドルが下落している理由は何でしょうか。その答えは、3月中旬から下旬にかけてドル指数が急上昇した背景とセットで考えるとわかりやすいと思います。当時は、コロナ禍でドル需要が急速に高まった時期でした。極度の不安心理の中で、国際決済通貨であるドルを確保しようとする動きが強まりました。
もちろん、まだ新型コロナウイルスの感染が収束したわけではありませんが、主要国では流行の第一波が峠を越え、経済活動は徐々に再開しています。各国で株価指数が急騰するなど市場心理は極度の悲観から楽観へと転換しており、リスク回避的なドル需要は一巡したもようです。結局、ドル安の原動力は市場心理の改善と見るのが自然でしょう。
ただし、移ろいやすいのが市場心理というものです。6月9~10日に開かれた米連邦公開市場委員会(FOMC)会合では、金融政策の変更はありませんでしたが、声明文と同時に公表された各政策メンバーの金利見通しで、2022年末までゼロ金利が継続されることが示唆されました。前述のように、市場は米国経済に対してかなり楽観ムードだったものの、FRBの慎重なトーンが投資家の不安心理を呼び覚ましたようです。
FOMCの翌日には世界同時株安に見舞われたほか、原油等の国際商品市況も値を下げました。ドルはリスクオフムードの中、総じて買い戻される展開となっています。また、米国の一部の州で新型コロナウイルスの感染者が再び増加し、流行の第二波への懸念が高まったこともリスク回避のドル買いを誘ったと言えます。
円は特殊な通貨
一方、円もドル同様、リスクオフ時に買われ、リスクオン時に売られやすいという特徴があります。ドルと円は同じ方向に動きやすいという意味で、一筋縄ではいかない厄介な通貨ペアと言っても過言ではないかもしれません。
確かにリスクオフ環境においては、傾向として円高ドル安に振れやすいのですが、他通貨に比べると値幅は出にくいと言えます。時に大きな値動きに発展する場合は米国債など他市場のサポートがある場合です。直近で確認すると、3月9日に米長期金利が0.3%台と未曽有の水準まで低下した場面で、一時1ドル=101円19銭まで円高が進んでいます。
では、今後も米長期金利の急激な低下によって円高ドル安がもたらされる可能性はあるのでしょうか。前述のFOMC後、米長期金利は0.6%台へと低下しましたが、おそらくこの水準がボトムに近いという認識です。
もちろん、新型コロナウイルスの感染拡大第二波は心配ですが、ある程度、市場参加者は心の準備ができていると思われます。第一波の時のような大混乱は避けられる公算が大きいとみられます。米政府は仮にそういう状況が訪れたとしても、経済の再閉鎖は行わない方針のようです。今年後半からの景気回復シナリオは相応に信頼できるのではないでしょうか。
今後も市場心理は揺れ動くことになりそうですが、基調としてはリスクオンへ向かうことを想定しています。予想が正しければ、為替市場では総じてドル高修正の継続が見込まれます。一方、為替市場の中で円はドルと同方向に動きやすいという特殊な通貨です。ドル安地合いの中でも、円安進行という都合のいい話が十分起こりえるのです。
<文:投資情報部 シニア為替ストラテジスト 石月幸雄>