はじめに
レンジでの業績開示も増加
ここで筆者は、コロナ禍で不明瞭な環境の中、新しい開示方法を取る企業が増加していることに注目したいと思います。それは、「レンジ形式で業績予想を開示する会社」の増加です。
具体的には、コロナ禍が収束する時期などについて複数のケースを検討した上で、業績予想を上限から下限まで、幅を持たせた数値を開示するという方法です。このようなレンジ形式の開示は、2019年3月期には7社だけにみられていましたが、今期に関しては、カオナビやワコムをはじめとして、前年同期比を大きく上回る25社がレンジ形式での業績予想を開示しました。
業績予想はあくまで株主などに事業の先行きを確認してもらう判断要素であるという趣旨から考えれば、1点の予想値を出すよりも、順調に推移した場合とそうでない場合のレンジで出すほうが、よりニーズに即しているといえるのかもしれません。
「未定」「非開示」も違法ではないが…
注意しておきたい点は、たとえ業績予想を未定ないしは非開示としたとしても、法律上の責任が問えるわけではなさそうであることです。なぜなら、業績予想は金融商品取引法によって提示することが義務付けられてはいないからです。法定開示の場合、有価証券報告書や四半期報告書などの重要な書類の提出に問題があれば法律上の責任を問われることになります。
一方で、業績予想については、金融商品取引所が要請する適時開示制度の範疇にとどまり、強制力がそれほど強くないのが現状です(悪質な場合は日本取引所グループにおける自主規制に基づいた制裁が課せられる場合はありますが、これは法律に基づいたものではなく、あくまで同社の定めたルール違反に対するものです)。
今回は、コロナという特殊状況下ということもあり、業績を未定・非開示とすることについては日本取引所グループ側もそれほど厳しい姿勢で評価してはいません。しかし、上記で検討した通り、市場参加者にとってはやはり、減益予想であっても誠実に開示したり、レンジ方式で情報を開示するといった工夫が見られる企業と、そうでない企業とでは、やはり後者に厳しい視線を向けるという動きもみられつつあります。
たしかに、シナリオ別に業績予想を検討することにはコストがかかります。しかし、このような時期であるからこそ、普段からもう一歩踏み込んだ情報開示を行うことが投資家からの信用向上に有効なのかもしれません。
<文:Finatextグループ 1級FP技能士 古田拓也>