はじめに

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。今回は野瀬大樹氏がお答えします。

今年、株式と投資信託を売却しましたが、すべて一般口座で管理をしていました。確定申告の際には、どの程度の厳密性で損益内容の証明書類を準備しておけばよいのでしょうか?
(匿名希望)


野瀬: 株式投資や投資信託を始める場合、当然ですが証券会社などで「口座」を作る必要があります。そして、口座は大きく分けて2つあります。

その違いは「税金の申告」をどうするかという点。投資で儲けが出た以上、そこに納税の義務が発生しますが、その方法を私たちは選ぶことができるのです。

一般口座と特定口座の違い

(1)一般口座

すべてを自分でやる口座です。いくらで株を買って、いくらで株を売って……ということをすべて自分で記録・計算して確定申告する必要があります。

(2)特定口座

特定口座は2種類あります。ひとつが「源泉徴収なし」というもの。毎年1月に証券会社から1年間の取引まとめである「年間取引報告書」が届くので、それを使って株取引の儲けを確定申告するというものです。先ほどの一般口座と比べて、株取引を記録する必要がないので、楽になることはイメージしやすいですね。

もうひとつは「源泉徴収あり」というもの。こちらは税金の計算もすべて証券会社がやってくれて、あらかじめ税金の分だけ株式投資の儲けから差し引き、私たちの代わりに納税までしてくれるという制度です。この場合、すでに税金は払われているので基本的に私たちは確定申告する必要がなくなります。

結論として、どの口座がよいかという話なのですが、通常の個人投資家であれば、特定口座の「源泉徴収あり」がおすすめです。

一般口座にもメリットはあるのですが、かなりレアなケースになるので、一般の方には当てはまりにくいです。

また特定口座の「源泉徴収なし」も取引が少ないケースであればメリットがあるのですが、事務手続きの手間などを考えると個人的には特定口座の「源泉徴収あり」をおすすめします。

確定申告の20万円ルール

サラリーマンなのに確定申告が必要になる代表的なケースは、投資や副業の儲けが20万円を超えた場合です。

株式や投資信託などの投資で儲けた場合、その儲けが20万円を超えれば確定申告をする必要があります。逆にいえば儲けが20万円以下であれば確定申告する必要はない。つまり税金がとられないわけです。

ただし不動産投資など、そのほかの理由で確定申告をしているケースであれば、たとえ株などでの儲けが1円であっても申告する必要がある点には注意が必要です。

そう考えると先ほどの特定口座で「源泉徴収なし」のメリットが少し理解できますよね。「源泉徴収あり」だと儲けが20万以下であろうと有無を言わさず税金を取られるのですが、「源泉徴収なし」だと、「今年は儲けが20万円以下だから申告不要だな、ラッキー」となるわけです。

ただ、今年の儲けが20万円以下になるかどうかは神のみぞ知る話ですので、手続きのめんどくささを考えると「源泉徴収あり」がおすすめとなるわけです。

今年の損を来年に繰り越す

また、株で損をした場合も確定申告をすべきです。なぜなら株や投資信託の損は確定申告することによって、来年に「繰り越す」ことができるからです。

具体的な数字で説明しましょう。

例えば株で100万円の大損を出したとします。こういった場合、確定申告することでこの損を来年に繰り越すことができます。仮に次の年に300万円の大儲けが出た場合、300万円に税率10%がかって税金が30万円になるわけではなく、繰り越した損の100万円分を差し引いた「300万円-100万円=200万円」に税率10%がかかって、税金は20万円になるのです。

この「損の繰越」は確定申告でしかできないので、損した時はきっちり申告すべきなのです。これは投資信託でも同じです。

株と投資信託の税率は20%。損の繰越の影響は大きいです。

株や投資信託については、特定口座の「源泉徴収あり」を想定すると「年間取引報告書」をきちんと保管しておくべきです。確定申告の際には、その提出が義務づけられているからです。

ただし確定申告を「電子申告」で行うと、この「年間取引報告書」の提出義務が免除されますので手続きが少し軽くなります。しかし、いずれにせよ「年間取引報告書」の内容はきちんと確定申告の書類に記入しないといけないので、「なくす」というのはやはり問題ですね。

毎年1月に証券会社などから届くので、確定申告までしっかり保管しておきましょう。

また、確定申告において税理士などの専門家へ申告書の作成依頼したほうがよいかどうか、というご質問をよくいただきますが、私はサラリーマンの副業程度であれば専門家にお願いしなくても自分ひとりで十分確定申告書を作成できると思います。

また最近は税務署も大変親切ですので、わからない時は直接相談したり、確定申告シーズンの無料税務相談を活用したりするとよいでしょう。そもそもたった数十万円程度の儲けなのに、数万円の税理士報酬を払うというのは気が進みませんよね。

ここは数万円の節約になると割り切って、自身での申告にトライしてみましょう。

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