はじめに

LGBTや女性の権利と同じ

──歴史的・文化的背景や、現代の移民問題などを俯瞰すると、フランスでの買春非犯罪化が簡単ではないことがわかります。それでも実現できると考えていますか?

フランスで最初に買春非犯罪化が叫ばれた1975年から45年間、実現できずにいますが、声は上げ続けてゆきます。私にとっては、この非犯罪化の動きは60年代のゲイムーブメントと同じです。当時はマイノリティーだった彼らも、今やLGBTとして権利を獲得しました。

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──女性の権利も同じですね。

はい、19世紀イギリスのビクトリア時代にフェミニズムが起こり、女性の権利に光が当てられたことが起源です。人種差別、階級差別、同性結婚と同じように、性労働者に関しても、先ほども言ったようにイメージを一般化することからだと思っています。時間はかかりますが、将来必ず非犯罪化は実現されるでしょう。

性労働者として一生働けるのか

──非犯罪化が実現できたとして、そもそも性労働は一生の仕事として続けられる職業なのでしょうか?年齢が高くなるとニーズも減って、長く働けなくなるのでは?

女性は年齢が高くなっても十分ニーズがありますよ、例えば40代の女性は若い男性からとても人気です。50代の女性性労働者もいます。ただ私のような男性の性労働者は、年齢が上がると極端に仕事が減ってしまいます。ゲイのニーズは特殊なのです。現在私の収入は、売春はほんの一部で、翻訳など他の仕事が主になっています。

──つまり二足のわらじ、ということですね。

性労働もフリーランスですから、常に自分のコンピテンスを解析し、自分をどこにどう位置付けるか、最新のツールを使ってどうアプローチすることが効果的かなど、マーケティングやセルフプロデュースが不可欠です。同僚の中には、コロナ禍の外出制限中にウェブカメラを使ってリモートサービスを始めた人もいます。

このように、新しいことにチャレンジして新しいマーケットを開拓することも重要です。私の場合はスタート時に得た、たくさんの仕事から多くを学び、それを今につなげることができました。長く働けるかどうかは、その人次第でしょう。

──フリーランスのライターである私との共通点があまりに多く、驚きます。私も全く同じ問題を抱え、同じ課題に取り組んでいます。

私たちの声に耳を傾けてくれる人は増えています。性労働者のイメージが他の職業と同じように一般化されるまで、今後も発言を続けてゆきます。

Keiko Sumino-Leblanc / 加藤亨延

■ティエリー・シャフォゼ
Thierry Schaffauser 性労働者、社会運動家。
1982年、パリ郊外シュレンヌに生まれる。18歳で性産業に従事すると同時に、エイズ撲滅運動や性労働者の地位獲得などの社会運動に参加する。2009年性労働者協会連合STRASS設立時には、中心人物の一人として尽力。性労働者の国際組織Network of Sex Worke Projects (NSWP)のヨーロッパ代表も務める。2013年から2017年は、ヨーロッパ緑の党パリ市議員でもあった。イギリスのロンドンでも多くの社会運動に参加し、重要な役割を担っている。2020年のコロナ禍ではSTRASSメンバーとして募金を募るなどし、働けなくなってしまったフランスの性労働者を物質的・経済的に救済した。

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