はじめに
7月以降、全国的に新型コロナウイルスの感染が再拡大しましたが、8月末現在ではピークは過ぎたようです。しかし、秋冬にかけてはインフルエンザとコロナが同時流行する懸念もあります。現在、全世界でワクチンや治療薬の開発に取り組まれていますが、広く一般に普及するには、しばらく時間がかかるでしょう。
このような中で、感染不安が強い人ほど、店舗の利用を控えて、ネットショッピングなどのデジタル手段の利用を増やすような傾向があります。ニッセイ基礎研究所の「新型コロナによる暮らしの変化に関する調査 」を使って、その状況を見ていきましょう。
感染不安が強いのは誰?
「自分や家族の感染による健康状態の悪化への不安」がある割合は、20~60歳代の55.9%を占めます 。属性別には、男性より女性、30歳代、未婚より既婚、子どもがいる人、ライフステージは第一子大学入学や第一子小学校入学、第一子誕生にいる人で強くなっています(図表1)。なお、30歳代の約4割は、第一子誕生と第一子小学校入学というライフステージにいます。つまり、ソーシャルディスタンスを意識しにくい幼い子どもがいたり、帰省の難しい大学生の子がいる人で、特に感染不安が強いようです。
職業別には専業主婦・主夫で感染不安が強いほか、就業者では経営者や正規雇用者と比べて、非正規雇用者(特にパート・アルバイト)で強い傾向があります。なお、パート・アルバイトでは飲食業や宿泊業、教育・学習支援業などに従事する割合が高くなっています。つまり、就業者では、不安定な雇用形態、在宅勤務をしにくい業種で働く人で感染不安は強いようです。
感染不安が強いほどデジタルシフト、例外も
次に、買い物の状況を見ていきましょう。買い物は、消費行動の中でも感染不安によるデジタルシフトの影響があらわれやすいと考えられます。
買い物手段の利用の増減を見ると、リアル店舗では減少が、ネットショッピングやキャッシュレス決済サービスなどのデジタル手段では増加が目立ちます(図表2)。また、リアル店舗では、生活必需品を買うスーパーなどと比べて、贅沢品などを買うデパートやショッピングモールの減少幅が大きくなっています。
リアル店舗の利用が減り、デジタル手段の利用が増す状況(デジタルシフト )は感染不安の強さとおおむね比例しています。買い物手段のデジタルシフト傾向は、やはり、感染不安と同様に、男性より女性、30歳代、既婚、子どものいる人、専業主婦などで強くあらわれています。
ただし、感染不安の強いはずのライフステージが第一子小学校入学の人では、デジタル手段の利用は全体と比べて増えるものの、スーパーなどのリアル店舗の利用は必ずしも減るわけではありません。これは、子どものいる就労世代などは、感染不安によらず、動かざるを得ない用事も多いためと考えられます。
なお、調査では収束後の予想についてもたずねているのですが、現在の状況と大きくは変わりません。それは、現時点ではワクチンや治療薬などは登場しておらず、感染状況の収束も見えにくい影響もあるのかもしれません。
五感を使う消費機会が減少する一方、新たな形も
コロナ禍で買い物のデジタルシフトが進むだけでなく、診療やフィットネスなど、これまでリアル(対面)のみでの対応が常識と考えられていたサービスまで、一気にデジタルシフトしました。
デジタルシフトが進むことで、利便性が高まる一方、消費者にとって失われた価値もあるでしょう。それは、五感を使った臨場感のある消費機会です。例えば、「デパ地下で美味しそうな香りにひかれて、つい惣菜を買ってしまった」とか、「店員の勧めてくれた洋服のコーディネートを気に入って衝動買いしてしまった」といった機会は減ったのではないでしょうか。
一方で、最近では、あらかじめ材料を聴講者へ送付して一緒に調理を進めるオンラインクッキング教室やワインのテイスティング教室、着付け教室など、視覚や聴覚だけでなく、オンラインでも味覚や嗅覚、触覚なども楽しめるサービスも登場し始めているようです。
外出を控えて家で過ごす時間が増えた、今ならではの過ごし方にも目を向けてはいかがでしょうか。