はじめに

部下の顔色が変わる!

私は、大手小売り企業で数年間、意識・行動改革に取り組みました。そのときの経験をお話ししたいと思います。

各支店の支店長のもとには部下のスーパーバイザーが10人ほどいます。支店長は自分もそういうふうにやられていたし、売上目標も大変なので、部下の話を聞くというよりは「あれやれ、これやれ」「あれはどうなった、何でやってないんだ」「売上をもっと上げろ」の連呼になります。

部下の話をゆっくり聞く気持ちの余裕も時間もありません。部下は部下で、常に支店長の顔色を伺いながら緊張して仕事をしていました。

私は全国の支店を順次回り、アクティブリスニングとポジティブフィードバック(編集部注:どんな場合でも肯定的に話す。褒める、感謝すること)の重要性を説明し、ロールプレイングなどの練習もして、その日からの実施を支店長にお願いしました。アクティブリスニングを100%できたか、ポジティブフィードバックを20回できたか、というメールを2週間にわたって毎日送っていただくようにお願いもしました。

そこでわかったことが、いくつかあります。

数日にわたってメールでのフィードバックをすると、どんな支店長でもアクティブリスニングの度合いが飛躍的に高まるアクティブリスニングをすると、これまで萎縮していた部下が明るくなり、悪い話でもどんどんしてくれるようになる・暗い雰囲気だった支店のオフィスで笑い声が出るようになる・スーパーバイザーが担当店舗を回るときに、同じようにアクティブリスニングができるようになる・担当店舗のオーナーも影響を受けて、部下の話を少し聞くようになる・こわもての支店長、生真面目そうな支店長、部下に過度に厳しそうな支店長、どういうタイプであってもこの変化が起きるこういうものです。

私の結論は、アクティブリスニングがむずかしいからできない、というより、アクティブリスニングなどやってもらったことがないから、それが大事だと知らなかったからできなかっただけだ、というものです。ぜひやってみてください。部下の顔色がすぐに好転し、仕事の話もしやすくなります。

部下を生き返らせるポイント

アクティブリスニングを始めると、部下は最初やや戸惑います。今まで話などほとんど聞いてくれなかった上司が真剣に話を聞いてくれるからです。「意見はいろいろあるけれど、言ってもいいのだろうか。前に意見を言った人が飛ばされたし」と普通は思います。上司の顔色をじっと観察します。

ですので、最初はおっかなびっくりですが、上司が数日継続し、一貫してアクティブリスニングの姿勢を見せ続けると、安心して明るくなります。意見も言ってくれるようになります。驚くほどすぐに慣れてくれます。

萎縮したり、殻に閉じこもっていたりした状況から抜け出て、生き返ってくれるのです。

部下を生き返らせるポイントは、

1.部下の話をともかく聞く。安心して話し出すまで気長に待つ
2.部下の話は最初は1時間、それ以降、隔週で20~30分程度聞く
3.部下への仕事の指示は、タスクシートなどに書いて伝える
4.部下の質問には即座に答える。それ以外はひたすら聞くだけ
5.アクティブリスニングを始めたら、三日坊主にならずやり抜く
6.アクティブリスニングをしているかどうか、同僚にチェックしてもらう。録音し、自分と部下の話している時間を測る

などです。

部下が自信を持ち、育つ

アクティブリスニングをされると部下が生き返るだけではなく、仕事への取り組みが真剣になります。前向きに取り組んでくれるようになります。そうすると、仕事の成果が出やすくなり、自信を持ちます。自信を持つと、意欲が湧き、成長が加速します。

上司が自分のことをわかろうとしてくれた、自分の話を聞こうとしてくれた、と感じるだけで気持ちが明るくなるからです。

それまでとは打って変わって、仕事の面白みを感じ始め、前向きになってハキハキし、上司とのコミュニケーションも改善されて結果を出しやすくなります。

部下に対してアクティブリスニングをするだけで、これほど変わるのです。

むずかしいことは何もありません。どうしたら部下がもっとやる気を出してくれるのか、どうすれば部下が育つのか、という質問をよくされますが、答えは簡単、部下の話を聞く、アクティブリスニングをするだけです。

逆に言えば、アクティブリスニングをしていない状況で部下の成長を期待するのはナンセンスと言ってもいいでしょう。車のキーをONにしないで車が動かないことを不思議がるようなものです。

あらゆる上司、リーダーは、アクティブリスニングをして、部下に自信を持ってもらうとよいと思います。人材育成のむずかしい話は不要です。

最後に、部下が自信を持ち、育つようになるためのポイントをあげておきましょう。

1.アクティブリスニングにより、部下の話をしっかり聞く
2.特に前の上司の経験や、社会人になった後どういう辛いことがあったのかを聞く
3.部下の価値観、特に何をいいと思っていて、何をよくないと思っているかを聞く
4.部下が仕事上の課題を早めに相談できるよう、短時間でも週次で機会を作る。対面が望ましいが、むずかしいときは電話でも構わない
5.部下全員がアクティブリスニングを身につけるように、コーチングする
6.特に、部下が同僚、後輩、外部の人、プライベートでもアクティブリスニングをするように、フォローし、助言する
7.部下同士で助け合いやすいように、ベストプラクティスの共有を進める
8.部下全員が自身の長所、成長課題、成長目標などを正しく認識するように、コーチングする

アクティブリスニングの具体的な方法については、『自己満足ではない「徹底的に聞く」技術』をご参照ください。

『自己満足ではない「徹底的に聞く」技術』

自己満足ではない「徹底的に聞く」技術

(この記事は日本実業出版社からの転載です)

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