はじめに
不満の矛先は王室へ
軍政回帰ともとれる流れに若者を中心とした国民の不満が爆発し、連日の反政府集会へとつながっています。当初はプラユット政権の退陣や新憲法の制定、総選挙が訴えられてきましたが、8月に入り先鋭化。矛先は王室へと向かっています。
8月中旬に開催された反政府集会では、学生団体によって10項目にわたる王制改革の要求が打ち上げられました。
議会制民主主義でありながらも、国王が事実上その上位に立つタイ式民主主義において、王室批判は最大のタブーとされています。実際に、刑法112条において、王室を中傷、侮辱した場合、1件あたり3~15年の禁固刑が処せられるとあるように、タイには世界的にみても極めて厳しい不敬罪があります。
一方で、2014年のクーデター以降、王室と軍部の関係は緊密化し、国王の権限が強化されている点が国民の反発を買っているようです。
非常事態宣言に基づいてプラユット首相が布告した規定のひとつに「集会の禁止」がありますが、その目的は新型コロナの感染抑止ではなく、反政府集会封じではないかと見られているのです。
観光立国に大ダメージ
タイの2020年4~6月期の実質GDP成長率は、前年同期比-12.2%と、アジア通貨危機時以来の落ち込みとなりました。コロナ禍のロックダウンや米中通商摩擦、干ばつなどが重なり、幅広い産業で成長率が大幅に減少しましたが、特に厳しいのが観光産業です。
タイはGDPに占める観光収入の比率が20%近くを占めるなど、アジアの中でも観光産業への依存度が高い国のひとつです。2019年にタイを訪れた外国人旅行者は3,979万人と過去最高を記録しましたが、コロナ禍により状況が一変。1月は前年同期比2.5%増、2月は同43%減、3月は同76%減、4月以降は国際線の運行停止によりゼロとなっています。
8月にタイ政府観光庁は、入国規制が年末まで続けば、今年の外国人旅行者数は700万人にとどまるとの予測を示しました。
世界各国での第2波、第3波の発生などからインバウンドの需要回復が見込みづらい一方で、タイは7月以降、日本など特定の国を対象にビジネス目的の渡航者の受け入れを開始しました。しかし、反政府運動の激化や軍政回帰の動きは、対内直接投資を踏みとどまらせる可能性があり注意が必要でしょう。
<文:市場情報部 北野ちぐさ>