はじめに
適切な治療でないからうつが再発する
狭義のうつは抗うつ薬と安静療養によって治る病気ではあるが、世間で認識されている広義の「うつ病」にあたる疾患には様々なものがあり(図表2)、このなかで抗うつ薬による治療が有効なのは大うつ病(単極性うつ)だけだと亀廣院長は指摘する。症状からよく似た疾患までうつ病と診断し、薬だけに頼るような治療を施してしまうから改善したようにみえても再発してしまう、と亀廣院長は現在の医療の問題点を指摘する。
「これまで当クリニックで抗うつ薬を処方したのは1990人中2人だけです。ほとんどはうつ病と似た疾病の、双極2型障害や成人の発達障害を基盤に発症した抑うつ反応にあたるものです。そうした患者に対して抗うつ薬は特効薬ではありません。非薬物療法も重要なアプローチとなります」
同クリニックは薬に頼らない治療を打ち出している。ただし、まったく薬を使わないわけではない。
「頼れる薬はきちんと使いますが、職場復帰を考えるなら、向精神薬の添付文書には危険作業従事制限があることに留意が必要です。それをふまえれば、薬を飲んでいると自動車どころか自転車にすら乗れません。飲酒運転と同様に法的に禁止されるからです。車に乗れないと仕事にならないことも多いでしょう。ですから、薬を飲みながら復職するというのはそもそも無茶なんです」
そこで同クリニックが使用するのが漢方薬だ。漢方薬を用いるのは副作用がほぼないことだけでなく、そうした危険作業従事制限がないので、服用しながら職場復帰しても問題がないということがある。これまで抗うつ薬を服用してきた回復までの状況を整理・共有するメンタル不調から脱することができるかどうかは本人次第であって、周囲にできるのはそのサポートまでである。
企業としてどのように職場復帰をサポートしていくかの基本は、直接あるいは産業医を通じて主治医とコミュニケーションをとり、状況にあわせてその指示に従っていくことだといえる。
ここで大事なのが本人と会社、医療機関の三者間の信頼関係だ。会社から主治医に情報提供を求めても医師の守秘義務を理由に、非協力的な反応が返ってくることもあるようだ。
職場が従業員の主治医の対応に不信感をもったとしても、それを従業員本人に理解させるのはなかなかむずかしいだろう。
・漫然と向精神薬投与が繰り返される
・長期間休職が続く
・再発休職を繰り返す
そんな場合には、念のため、といってセカンドオピニオンを勧めてみてもよいだろう。
同クリニックでは休職診断書の発行にあたって、復職リハビリテーションプログラムについての資料提供と、連携のための双方の担当窓口の明確化を行なっている。
そして、次の3点を本人に指導している。
・休職中は週6日のプログラムに休まず参加し、治療に専念すること
・スムーズな復職に向け、職場担当者と、2週間に1度メール等での近況報告と、可能な限り、1か月に1度面接を行なうこと
・プログラムを通じてマニュアル(「自分のトリセツ」)を作成し、再発・再休職防止に努めること
これにより、どのようなことを念頭に置いて症状と向き合っていくべきかをトリセツ=取扱説明書として整理させることによって、本人の理解が深まると同時に、周囲もどう支援すればよいかが理解しやすくなる。
また、復職までの進捗状況を「復職パス」というシートにまとめて可視化している。
そうしたツールの活用によって、図表3の復職までのステップを実践するための適切な情報共有が図られる。