はじめに

病気そのものを理解する

「その人を理解し、共感することが大切なのは言うまでもないのですが、その疾病が一般的にどんなものであり、どのような特徴があるのかを論理的に理解することも重要です。気分障害のなかでもとりわけ多いのは双極2型障害とASD(自閉症スペクトラムやアスペルガー症候群)のような発達障害の二次障害としての抑うつ反応です。同じようにみえる症例でも、気をつけなければならないポイントは異なりますから、職場に求められる配慮も変わります」

社内の理解を促すという意味で、本人への対応とは別に、休職者のいる職場や上司などのキーパーソンを対象に、一般論としての疾病に関する職場向けのセミナーを提供している。

双極2型障害は軽い躁状態とうつ状態を繰り返すことが特徴で、長い軽躁期のあとでうつ転し、それまでできたことができなくなったり、楽しめたことが色あせて見えてくる。軽躁・うつ状態を交互に繰り返すため、職場担当者が気をつけなければならないのは、仕事をしすぎないように監督することだ。

「仕事熱心でいつも元気にみえていた人がうつ症状を発症したときに『なぜこの人が?』と思ったりするのは双極2型障害でよくあるケースです。本人がやりすぎに気づきにくいので、サービス残業や必要以上の休日出勤はないかをチェックし、働き方に問題があれば改善するように声かけをしていくことが求められます」

一方、成人の発達障害の場合は、意識すべきはコミュニケーションのあり方だという。

「発達障害の人は場の雰囲気を察する、空気を読むといったことが苦手です。漠然とした内容の指示は伝わりにくいので、何をいつどこまでやればよいのか、途中で新たな指示を出すときは前に頼んでいたこととの優先順位まで伝えてほしい。本人が理解できているかどうかを確認することも重要です」

治療にあたっては、こうした病気の特徴を本人に理解させてその不調との付き合い方を学ばせることになる。それを職場の上司、同僚がふまえることが、働きやすさや再発の防止につながる。

また、「うつ病にはがんばれといった励ましは厳禁である」とよく言われる。大うつ病についてはそのアドバイスはあてはまるが、「これを言ったらまずいのではないか」と委縮せずコミュニケーションをとっていくとよいと亀廣院長は指摘する。

「職場復帰の際にはまずは『おかえり』と温かく迎え入れ、何が苦手なのか、逆に得意なのは何かについて一緒に探していくようにしましょう。いわゆる飲みニケーションも時にはよいと思います。ただ、成人の発達障害の場合はコミュニケーションの苦手さがその特徴の1つなので、無理に食事に誘ったりしない配慮も必要です」

得意なことと苦手なことをふまえた業務や責任の割り振りを意識していくことも、職場担当者や上司に求められる能力だ。患者に対しては、時間をかけて減らしていき、最終的には漢方処方だけにしていく。

(構成=冨重雅也)

『復職後再発率ゼロの心療内科の先生に「薬に頼らず、うつを治す方法」を聞いてみました』

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(この記事は日本実業出版社からの転載です)

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