はじめに

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。今回は野瀬大樹氏がお答えします。

今年の秋頃に起業しようと思ってます。まだ役員や従業員はいません。もし従業員を雇ったときに、給料としてクレジットカードを渡し、「基本給 - クレジットカード利用額」の差引き分を現金で支給するとした場合の税金や保険はどうなるでしょうか? よろしくお願いします。
(20代後半 独身 男性)


野瀬: うーん、これは難しい質問ですね(笑)。

あくまでも固定給の総額で考える

まず前提があまり詳しくみえないのですが、おそらく想定されているのは、仮に「固定給30万円」としたら、会社からクレジットカードを渡し、その人が生活費などの支払いにはクレカを利用。そしてクレカの支払いが20万円だとすると、その利用料を差引き、残った10万円を現金で支給する……というイメージだと思います。

理論的にいえば、固定給の全額30万円が従業員の給料となるので源泉徴収税額表に基づいて毎月の所得税を計算し、支払う現金から差し引いて渡す必要があります。これは社会保険料についても同様です。固定給の30万円をベースに組合の利率に基づいて計算することになります。

給与支払いの5つの原則

今、上記で「理論的にいえば」とお答えしたのですが、私が懸念しているのは「そもそもこの支払方法が可能なのか」という点です。

なぜなら労働基準法によって給与の支払いには5つの原則があるからです。

(1)通貨払いの原則

給料は原則「お金」で払う必要があります。またその方法も現金手渡しか、従業員の預金口座への振込と決められています。

(2)直接払いの原則

給料は従業員本人に支払わなければなりません。本人以外に給料を支払うことを禁止されています。つまり従業員の親戚などにも払うことが禁じられているのです。

(3)全額払いの原則

給料は、以下の例外を除いてその「全額」を従業員に払う必要があります。

(i)法令に別段の定めがある場合(税金・社会保険料など)
(ii)労使協定が締結されている場合

従業員と別途約束がなされていれば、社宅などの福利厚生費用や積立預金などを差し引くことができます。

(4)毎月1回以上の原則

給料は毎月1回以上支払わなくてはなりません。

(5)一定期日払いの原則

賃金は毎月一定期日に支払わなければなりません。

私が懸念しているとお伝えしたのは、上記5原則の(3)に違反しないか、という点です。

労使協定を締結、簡単にいうと契約を結んでいれば大丈夫のようにも読めるのですが、この条項が想定しているのは、社宅費用や積立預金についてですので、果たして「生活費」などを入れていいのかどうかは疑問が残ります。

ある意味、個人のプライバシーたる生活費を会社が監視管理することになるので、「労基に違反!」といわれる可能性も残っていると思います。

ただ、この従業員の方が実際は奥様などご家族で、単に生活費をすべてクレジットカード決済にして管理しやすくしたり、ポイントを貯めたいという場合であれば、問題にならない可能性もあると思います。

大変お手数ですが、この件については社会保険労務士にしっかりと相談、確認することをおすすめします。

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