はじめに
現在の感覚で約670万円のヨーロッパツアー
―どんなツアーだったのですか?
長尾:「ヨーロッパ16日間コース」で、コペンハーゲン(デンマーク)、ロンドン(イギリス)、アムステルダム(オランダ)、フランクフルト(ドイツ)などヨーロッパの主要都市を回るものでした。
価格は当時の金額で67万500円。この時代の大学卒の初任給が2万1千円くらいだったようですので、今の約10分の1です。つまり、現在の金額に換算すると、670万円くらいになりますから、とてつもなく高かったことがわかります。
1965年のジャルパック新聞広告。ヨーロッパコースのほか、香港・マカオ・台北コース、アメリカ一周コース、東南アジアコース、ハワイコースなどがあった
昭和の日本人にとって海外は「未知の世界」だった
―当時は、旅行先の各国の情報も今ほど得られなかった時代ですよね
長尾:はい、歴史とか慣習にまつわる限られた情報はあっても、「旅行先」としての情報はほとんどありませんでした。ほとんどの日本人にとって海外は「未知の世界」だったわけです。
ですから、パッケージツアーに参加される方に対し、渡航前に「旅行説明会」を実施し、たとえば「食事の仕方」「風呂の使い方」など、慣習面での情報をご説明することを行っていました。それでもヨーロッパだと、ビデをトイレと間違えて使う参加者がいるなど、まだまだ日本人は海外旅行に慣れない時代でした。
―そういった意味でも、添乗員がついていないと行けない時代だったのですね
黒永:そうなのです。ですから弊社では「お客さまに寄り添ったサービス」だけでなく「安心」「安全」を強く訴えていました。その象徴的なものが、トラベルバッグです。
旅行に必要な、ポケット通訳、外貨の換算表、各地のレストラン、お土産屋さんの地図が書いてある案内所、参加者バッジ、荷札などをバッグに入れて、参加者の方にお配りしていました。
―昭和世代にとっては、ある意味「海外への憧れ」でもあったバッグです。
黒永:慣れない海外でも、このバッグを持っていれば、パックツアー参加者であることがすぐにわかるという効果もありました。今ではトラベルバッグは廃止していますが、参加者バッジや荷札は現在でもパッケージツアーで使われることもあり、名残を感じますね。
ジャルパックが始めた当初のトラベルバッグ