はじめに

母親ひとりで子育てする姿が“ワンオペ育児”を推奨していると、先日炎上し話題になった某オムツのCMーー。待ちに待った赤ちゃんの誕生はとても喜ばしいはずなのに、出産後の女性のまわりでは、そうしたワンオペ育児や、産後うつ、産後クライシスなどネガティブな言葉も飛び交います。

ひとりで育児の悩み・不安を抱え込みやすい産後の女性に寄り添い、身の回りの世話だけではなく、心のケアまでしてくれる産後ドゥーラが今注目されています。


産後の母に寄り添い、支える存在

泣きやまない赤ちゃん、慣れない授乳、昼夜問わずの世話で寝不足が続き、身も心もくたくた……産後、そんな苦労をした女性も多いのではないでしょうか。

そうした時期に母親に寄り添いサポートしてくれる「産後ドゥーラ」が今注目されているそうです。

産後ドゥーラとは、民間資格で認定された産前産後ケアのスペシャリストで、出産後の女性宅に訪問し、食事・洗濯・掃除といった家事や、赤ちゃんの沐浴・兄姉の遊び相手といった育児など、身の回りの世話をしてくれます。

母親の声に耳を傾ける産後ドゥーラ 提供:ドゥーラ協会

産後の女性にとっては、日常生活のサポートをしてくれるだけでもとても助けになると思いますが、実は、産後ドゥーラは家事や育児をするだけではありません。

産後ドゥーラが担う、もうひとつの重要な役割について、ドゥーラ協会事務局の有山さんに話を聞きました。

沐浴が上手なのも産後ドゥーラの特徴

「産後ドゥーラは、母親サポート、育児サポート、そして家事サポートの3つの柱で活動をしています。なかでも母親のサポート、つまり産後の母親に寄り添うことを第一の軸に据えています。母親がしっかりと産褥期(産後6~8週)に養生をし、十分に身体と心の回復ができるように、寄り添い、支えて、新しい家族の始まりを『暮らしを整える』という側面からサポートしているのです」

不足する産後へのサポート

さまざまな事情で身内の協力を得ることが難しく、夫婦だけで出産・子育てをする家庭も少なくありません。しかし、「夫婦二人だけで産後を乗り切れると過信するのは禁物です」と有山さんは話します。

「産後女性の約6割が、出産直後から4ヶ月の間に不安や負担を感じているそうです。しかし、現在の日本において妊娠から子育て期でサポートが最も不足しているのは、まさに“産後”なのです」

出典:山梨県新たな産後育児支援の在り方検討会「産後の母親支援に関するアンケート」(平成25年・調査対象1,423名)

特に、女性が妊娠・出産で消耗した身体を休める産褥期は、慣れない育児にホルモンバランスの乱れも影響して、不安や孤独を感じやすくなるといわれています。この時期はしっかりと養生するのが重要とされていますが、ひとりで子育てに向き合わざるをえない母親が多く、まさに「孤育て」に陥ってしまい、精神的に不安定になりかねません。

こうした危機を乗り越えるために必要なのが、母親になる女性に優しさと愛情を注ぐ、“母親に寄り添う存在”と有山さん。

「母親は、自らに優しさを注がれてはじめて、我が子に目を向けられるようになります。それによって子供も安定し、母乳育児も軌道に乗りやすくなります。さらに産後うつ率も減少します。諸外国では、ドゥーラの『エモーショナルサポート(精神的支援)』の研究がなされ、その効果が認められています」

こうした心強い存在が身近にいることが、産後うつ(母親の危機)、虐待(赤ちゃんや兄姉の危機)、夫婦不仲(パートナーシップの危機)といった『産後の三大クライシス』を予防することにつながっていくのだそうです。

子供がかわいいと思えるように

実際に産後ドゥーラを利用した女性から、寄り添ってもらったことで気持ちが救われたという声が同協会には多く寄せられているそうです。

「産後の心や身体はうまく説明できないことが多く、それを言わなくても分かってくれる人が来てくれるだけで安心できます」
 
「家事支援をしてもらいたくて依頼しましたが、話し相手になっていただけたことが結果的になにより良かったです」
 
「些細な相談相手がいることで、気がぐっと楽になりました」
 
「私は産後の大変さに”共感”が欲しかったのだと思います」
 
「心にゆとりができ、子供たちをかわいいと思えるようになりました」

産後ドゥーラ第1期生が誕生した2013年に1件から始まった問い合わせは、現在、公式ホームページで紹介している認定産後ドゥーラのプロフィールページに月100件も寄せられるのだとか。

『産後うつ』『ワンオペ育児』など、「産後の女性を取り巻く状況に関心が寄せられ、産後女性に寄り添う存在の必要性が認知されてきたことが、産後ドゥーラが求められている理由のひとつだと思います」と有山さん。

利用料金を助成する自治体も

こうした母親に寄り添い、支える産後ドゥーラの存在に関心の目を向ける自治体も増えています。

2015年に東京都中野区で産後ドゥーラの派遣事業が採択されてから、現在では品川区、杉並区、世田谷区、港区、神奈川県箱根市、静岡県菊川市、福岡県福岡市などの自治体が、産後ドゥーラの利用料金を産後ケア事業等の助成対象にしています(2017年7月現在)。

利用料金は、契約する産後ドゥーラ個人によって異なりますが、1時間2,500円~3,500円ほど。料金の一部を自治体が助成してくれる場合もあるので、気になる方はお住まいの自治体に問い合わせをしてみるといいかもしれません。

産後は母親ひとりで頑張ろうとせず、産後ドゥーラの力を借りることが、これから長く続く子育てをのりきる秘訣になりそうです。

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