はじめに

そしてアリババ、京東などの大手も参入?

もうひとつ、無人店舗がにわかに注目されている理由のひとつには大手の参入があります。

中国EC最大手であり、さまざまな先進的な取り組みでも知られるアリババが、その本拠地・杭州で開催した大型イベント「淘宝造物節(タオバオ・メイカー・フェスティバル)」に目玉のひとつとして出品したのが、「Tao Cafe」という名前の無人ショップでした。

買い物の流れは前述したBingo Boxと大きくは同じで、アリババ社のAlipayという支払い用アプリで登録して入店。ほしい商品を手に持ったまま清算用の区切られたエリアに入ると、レジ会計の代わりに商品についたタグがスキャンされ、合計額が自動的にAlipayから差し引かれるようになっています。

技術的な面については非公開のため詳しくはわかりませんが、1人ずつの入店を想定しているBingo Boxに対し、このTao Cafeは店内に50人が同時に入れるようになっていて、通常の小売店やスーパーを想定しているようにも思えます。

Tao Cafeはイベントに並んだ多数のブースのなかでも飛び抜けて人気で、未来的なショッピング体験をしたい若者で常に長蛇の列となっていました。

ただし、報道関係者向けの説明によると、この店舗はイベント用のコンセプトショップで「実際の出店計画はない」とのこと。そもそもアリババのメインビジネスはオンラインのモール運営で小売り業への進出は計画していないことから、自社イベントの目玉として「純粋に技術力の宣伝のために行ったものではないか」と言われています。

しかし、EC業界におけるアリババの最大のライバルで、こちらは「今後5年で100万軒の実店舗を出店する」と宣言している京東(JD.com)の一部店舗は無人型になるだろうと報道されています。

これら中国を代表する2社のほかにも、新興・大手問わずさまざまなプレイヤーが参入しており、中国ではしばらくの間、この話題で盛り上がりそうです。

実際に営業する店舗から日本が学べる点

労働人口の減少が見込まれる日本でも、実は以前からこのような取り組みが行われてきました。

セルフレジについてはこの1年ほどの間に、TSUTAYA、マクドナルド、無印良品、ジーユーなど、幅広いチェーン系小売店が次々に導入しています。ほかにも大手スーパーの半数が導入しているなど、生活の中で目にする機会も増えたのではないでしょうか。

しかし残念なことに、その多くは商品のバーコードをひとつずつ自分で読み込む必要がある「セルフ会計式」。なぜ中国のように、手間なく簡単な自動読み取り方式のセルフレジが実現しないのでしょうか?

目下、なんといっても最大の課題は、中国の無人店舗でも使われているRFIDと呼ばれるタグの価格です。これが付いてさえいれば、いちいちバーコードをスキャンする必要がなく、消費者としては大変便利なのですが、単価・利益率が低い食品や日用品の一つひとつに、おおよそ原価15円程度といわれるタグの取り付けが必要となると、スーパーやコンビニではレジの人件費を減らせたとしても逆に赤字になってしまいます。

また、タグ本体の価格だけではなく、さまざまな形状のパッケージに取り付ける作業は人力で行う必要があり、これもコスト増の要因です。

今回紹介したBingo Boxのビジネスモデルは、実は“夢のような新発明”に支えられているものではありません。無人化による人件費カット以外にも、店舗の簡素化・小型化によって建造コストと賃料を下げ、商品も比較的仕入れ時に価格交渉がしやすい独自ブランド商品を中心とし、トータルコストを引き下げることで、RFIDで増えたコストを吸収しているものと思われます。

そのため日本でも、今まで出店できなかったような小さなスペースに、例えば自社開発製品だけを並べた店をオープンするというようなかたちで実現することはできそうです。

また今年4月には、経済産業省が大手コンビニ5社とともに、「コンビニ電子タグ1000億枚宣言」を発表しました。これは2025年までに、すべての取扱商品、約1,000億個(年)に電子タグ(=RFID)を取り付けるというものです。

このプロジェクトにはRFIDタグを開発・販売する企業も参加しており、今後こうしたかたちで利用が進めばRFIDの単価も下がり、みなさんの近所にある普通のスーパーでも、レジがない未来的なショッピングができるようになるかもしれません。

最後に残る課題は?

しかし最後に大きな問題が残ります。それは現金の取り扱い。現在の日本は、以前と比べればSuicaをはじめとするICカードでの支払いが徐々に拡がりつつあるものの、依然、現金を使う層が多数を占めています。

現金を受け入れる必要があるとなると、防犯措置を一層強化しなければいけないことに加え、レジ設備も大型化。その結果、運営コストが高くなります。

ここまで見てきたように、中国のBingo BoxやTao Cafeは、AlipayやWeChat Payなどキャッシュレス決済のみを利用可とし、現金を受け入れないことでこのコストを回避してます。また、実名と紐づくこれらの決済システムを入店時の個人識別として使うことは、副次的な効果として盗難やトラブル抑止にも役に立っています。

日本企業は一般的に、利用できない人が存在することが明確なサービス提供を好みません。皆に分け隔てなく公平にサービスを提供する姿勢は非常に立派なことだとは思うのですが、個人的には例えばエキナカなどであれば、ICカードしか使えない店舗があっても「なぜ現金が使えないのだ!」と怒る人はいないと思うのですが……いかがでしょうか。

(文:林毅)

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