はじめに
「どうすればいいかは、自分で考えてよ」
「何を言いたいのかわからないよ。きちんと考えた?」
「言いたいことはわかるけど、今ひとつ説得力がないな……」
課題に自分なりの答えを出す。想定外の事態に対応すべく、新たな案を考え出す。自分の意見に説得力をもたせる。これらのように、社会に出るとさまざまな場面で「自分できちんと考える力」、つまり「考え抜く力」が求められます。
その一方で、日本ではいわゆる「正解主義」に重きを置いた学校教育が行なわれるため、正解のない問いに自分なりの答えを「考え」、意見することを苦手とする人が少なくないようです。
そこで、大学で20年以上に渡り、「考える力」について講義している狩野みきさんの著書『世界のエリートが学んできた「自分で考える力」の授業』から、「考える力」を身につけるためのプロセスを教えてもらいましょう。
ハーバード大学も提唱する「自分の意見の作り方」
グローバルな舞台で活躍する人々は、一人ひとりが明確な意見を持ち、しっかりと「自らの頭で考える」スキルを身につけているようです。というのも欧米、とくにアメリカでは「考え抜く」ための教育が幼いころから取り入れられているからです。
たとえばハーバード大学の教育プロジェクトでは、次のような「自分の意見の作り方」が提唱されています。
Step1 〈あること〉について自分はどれだけ理解しているのか、確認する
→「理解していること」を確認すれば、「理解できていないこと」が明らかになる
Step2 〈あること〉について理解できていないことは何か把握し、「理解できていないこと」を解決するために、調べる
→理解が深まる
Step3 自分の意見を持つ
(『世界のエリートが学んできた「自分で考える力」の授業』15ページより)
ただし、この3ステップのうち、「あること」に対する理解を深めること〈ステップ1と2〉なしに、いきなり「意見を持つ」という段階〈ステップ3〉へと飛ぶのはNGだと狩野さんは言います。
たとえば、後輩が新たな商品企画を提案してきたとします。それに対してあなたが、「これってA社の人気商品の二番煎じだよね。それに、その分野に挑戦するのはリスクが高いよ」と意見するとしましょう。
これが後輩の企画についてしっかりと理解した上での発言ならば、立派な「意見」ですが、あまりよくわかっていないのに発言したのなら、ただの「印象」にすぎず、「考えた」ことにはなりません。
では、どうすればもっと物事の本質を理解し、きちんと考えた上で、説得力のある意見をもつことができるのでしょうか。
日本人は無意識に「理解しているフリ」をしてしまう
日本語でのコミュニケーションは、「互いに察し合う」ことに重きがおかれ、「あ・うん」の呼吸がよしとされる文化なので、自分や相手の発言について、質問や確認をすることを無意識に避けがちです。
そのため、自分は相手の言っていることをどれだけ理解しているのか、また相手は自分のいっていることを理解しているのかといった、互いの「理解を深める」作業が、日本人には「当たり前のこと」になっていないのです。
では、「理解を深める」ためには何をどうすればいいのか、6つの方法でチェックしてみましょう。
Tip1. 5歳児に説明するつもりで話してみる
「理解しているつもり」の状態から抜け出すためには、まずは情報を「5歳児にもわかるように説明できるか?」とシミュレーションしてみることが有効です。
なぜなら、子供でも理解できる簡単な言葉で説明するには、他人の意見や情報だけでなく、自分自身の意見もきちんと整理していなければできないため、理解の度合いをチェックすることができるからだそうです。
Tip2. カタカナ語を掘り下げる
情報を「きちんと理解する」ためには、何気なくつかってしまうカタカナ語や業界用語にも注意が必要です。たとえば、会社でよくつかわれる「コンプライアンス」「コンセンサス」といった言葉の意味を、本質的に理解できている人はどれだけいるでしょうか。
言葉は、誰が、いつ、どのような場面で、誰に向かってどのように発するのかによって意味が決まります、だからこそ、自分の目の前にある「言葉」の意味について、日ごろからきちんと意識するクセをつけておく必要があるのです。
「ぼんやり」した理解のままでいると、誤解や失敗の原因となります。