はじめに
投資による資産形成は、始めるまでの心理的ハードルが高い。求められる知識やかかる手間、そして損失のリスクに、つい二の足を踏んでしまうものだ。
しかし、今は順当に資産を築いている「投資の達人」も、最初は手探りだったはず。そこで、著名なインデックス投資ブロガーにインタビュー。投資のきっかけから現在の投資スタイル、そこにたどり着くまでの経緯など、「ビギナー時代」を中心に話を聞いた。
今回お話を聞いたのは、日本経済新聞やマネー誌などに数多く取り上げられるインデックス投資ブロガーの水瀬ケンイチさん。IT企業に勤務しながら、堅実に資産を築いている。
個別株投資にのめり込み、仕事に身が入らない日々を過ごす
お話をうかがったのは「水瀬ケンイチ」さん、43歳。現在、都内のIT企業に勤めるかたわら、自身のブログ「梅屋敷商店街のランダム・ウォーカー」で、インデックス投資に関する記事を執筆。さらには、経済評論家・山崎元氏との共著書『全面改訂 ほったらかし投資術』(朝日出版社)も出版し、好評を博している。
水瀬さんは、20代で老後資金の不安から個別株投資をスタートするも、当初は株のことがいつも頭から離れず、仕事中もトイレに駆け込んで値動きをチェックしていたという。デイトレーダーならぬ“トイレトレーダー”になってしまうほど、投資に振り回されてしまった経験を持つ。
「個別株投資をしていた頃は、業績の下方修正や、ライバル企業の参入など、悪材料が飛び込んでくることが不安で、仕事中も株価ニュースをチェックしてしまう始末。悪材料が出たらトイレに駆け込んで、携帯で売却することもありました。投資銘柄の周辺情報に振り回されていましたね。
それだけのめり込んだにもかかわらず、結果的に手数料込みだと損失になってしまったんです。頭を使って選んだ銘柄も、結局は日経平均と連動して値下がりしてしまう。当時はトライ&エラーでいろいろな投資法を意図的に試していましたが、むなしさを感じることもしばしばでした」
――そこから、インデックス投資一本に転向されたそうですが、その理由とは?
「生活に支障をきたさない方法で投資をしたいと思い、いろいろ調べたところ、『インデックスファンドを買ってじっと待つ』方法が自分に合うんじゃないかという結論にいたりました。インデックス投資にしてからは、毎月給料が出たら一定額を積み立てるだけ。年に一回のボーナスでスポット投資をしています。たいした手間ではないので生活は様変わりしました」
――生活のなかで、投資に費やす時間はどれくらい変化しましたか?
「基本はバイ&ホールドだけ、ほぼ“ほったらかし”です。そのため脳内メーカーで考えると、普段、投資が占める割合は0~1%くらい。1日の中で投資に充てる時間も、同じくらいです。月に1回、積み立てをするときだけ投資のことを考えています。
ほかに新商品・新サービスや投資理論について情報収集したり、ブロガー同士の飲み会で個人投資家と情報交換をしたりすることもありますが、これはあくまでも趣味のブログ運営のためですので、自分自身の投資について考える時間は、日々に換算するとほぼゼロに近いかもしれません」
――個別株投資をしていた時期から比べると、生活もガラッと変わったと。
「はい。平日も休日も朝から晩まで、トイレ中ですら気になっていた投資ですが、その時間が大幅に削減されました。仕事にも以前よりも集中して取り組めるようになりましたし、余暇も趣味のスノーボードや釣りに充てられるようになり、生活が充実しましたね。今の目標は早期リタイアなので、投資もそのためにやっています」
長期スパンの資産形成でハズせない3つのコト
「梅屋敷商店街のランダム・ウォーカー」。下町個人投資家のインデックス投資実践記 ※この画像はサイトのスクリーンショットです
また、投資を始めたことにより、「株主・経営者の視点で企業を見ることができるようになった」と語る水瀬さん。個別株投資もマイナスばかりではなく、内部統制の仕組みや財務諸表の意味がざっくりと把握できるようになったとか。
個別株投資とインデックス投資の両方を経験してきた水瀬さんだからこそ、挫折しない“長期の資産形成”のコツを次のように語る。
「目先の増減に一喜一憂せず、長期にわたって投資を続けていくためには、3つのポイントを押さえることが大切です。
1つ目は『生活費の2年分程度の生活防衛資金の確保』、2つ目は『期待リターンとリスクを具体的な数字で把握すること』、3つ目は『世界経済の長期的発展を信じること』です。これらが大いに役に立ちました」
なかでも、生活防衛資金を重要視しているという水瀬さん。資産運用にあたっての“心の平静さを保つもの”として、2年分の余裕をもった生活費は確保しておき、リアル店舗をもつ銀行の預貯金にしておくことが無難だという。
14年間の利益は「高級車が何台も買える」くらい
アセットアロケーションの把握は年2回。その際に大きく変化していた場合はリバランスを行うという 図表:藤田としお
――では、気になる運用成績は?
「インデックス投資をはじめて、約14年になりますが、2008年のリーマン・ショックや、2011年の東日本大震災など、さまざまなことがありました。市場は上げ下げを繰り返してきましたが、一定の比率でインデックスファンドを毎月積み立て続けています。その結果、高級車が何台も買えるくらいの利益は出せていますね」
「ほったらかし投資」で順当に資産を築く水瀬さん。しかし、まだまだ目標とする利益には届いていないと、結果を冷静に捉えている。
「現時点では、いいところまで来ているものの、お金の悩みから解放されるほどの資産にはまだ到達しておりません。目標金額に到達して早期リタイアが可能になったときに、自分がどのように感じるのか、達成感なのか充足感なのか……今から楽しみです」
(文:末吉陽子/やじろべえ 記事提供/『R25』)