はじめに

「相続放棄」と聞いて、皆さんは何を連想されるでしょうか? 相続放棄を検討する理由としては、大きく2つが考えられます。

1)「被相続人が残した借金の支払から逃れるため」
2)「相続財産を引き継ぎたくない」

今回は、相続放棄することによって、どのような問題が起こるのか、またトラブルにならないための知識を解説します。


その1「被相続人が残した借金の支払から逃れるため」

佐々木マサシさん(仮名:27歳)は、父親であるコウジさん(仮名:57歳)を交通事故で亡くしました。突然の出来事でした。葬儀埋葬も終わり、今後のことを考えていくなかで、コウジさんの財産の話になりました。

マサシさんの家族は、亡くなったコウジさん、母親のマサコさん(仮名:54歳)、マサシさんの妹のユウコさん(仮名:24歳)の4人家族です。したがって、父コウジさんの相続人は、マサコさん、マサシさん、ユウコさんの3人です。

コウジさんの財産を調べていくうちに、消費者金融でお金を借りていることが判明しました。借金の合計金額は約1,000万円ほどでした。そのほかの財産は預貯金が700~800万円程度ありました。この時点で借金が相続財産である預貯金を上回っていました。そして、家族が知らない借金がある可能性もあり、今後も債務が増える可能性もありました。借金を相続することは避けたいと、マサコさん、マサシさん、ユウコさん3人は相続放棄を検討しました。

そもそも相続放棄って?

相続放棄とは、亡くなった方の相続財産を一切相続しないための手続きです。プラスの財産、マイナスの財産の全てを相続しないということになります。相続放棄をする場合は、相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から3カ月以内に家庭裁判所に申し立てをする必要があります。

相続放棄をすると相続人であった人は、はじめから相続人でなかったとされ、次の順位の相続人に相続の権利が移ります。相続放棄を検討されている相続人が、被相続人(今回の場合は父親コウジさん)の財産を使用したり、処分すると相続を承認したものとみなされる恐れがあり、相続放棄が認められなくなる可能性がありますのでご注意ください。

相続人の順位って?

亡くなった方に配偶者がいれば常に相続人です。配偶者以外の相続人の順位は以下の通りです。

第一順位:子供
第二順位:直系尊属(父母、祖父母等)
第三順位:兄弟姉妹

今回のケースでは、マサシさんとユウコさんという子どもがいますので、配偶者のマサコさんプラス子ども2人(マサシさん、ユウコさん)が相続人となります。父母や兄弟姉妹は相続人となりません。

もし配偶者のみで戸籍上子どもがおらず、亡くなった方の父母がご存命なら、配偶者プラス父母が相続人となります。父母がどちらも亡くなっていて祖父母がご存命なら配偶者プラス祖父母が相続人になります。父母、祖父母等直系尊属が全てお亡くなりになっている場合のみ、第三順位の兄弟姉妹に相続権が移ります。配偶者プラス兄弟姉妹が相続人です。もし兄弟姉妹が亡くなっている場合はその子供、亡くなった方からみて甥、姪まで相続権が移ることになります。

今回の場合の相続人の順位は

今回のケースだと、マサコさん、マサシさん、ユウコさんが相続放棄をしたとすると、
相続権がコウジさんの父母に移ります。コウジさんが57歳という若さで亡くなっているとするとご両親が存命である可能性が高いです。つまり、コウジさんのご両親が相続人となるのです。ご両親が借金を含め全てを相続する場合にはよいですが、借金を相続することを望まない場合には、ご両親も相続放棄をしなければならないことになります。

このように、相続放棄をすると相続の権利が移っていくので注意が必要です。借金を引き継ぎたくないからといって、子どもが相続放棄をすると他の親族に迷惑がかかることがあるのです。借金を引き継ぎたくないのであれば、父母や兄弟姉妹など相続権が移っていく人たちに借金を背負わせないために、事前に配慮をしておく必要があります。具体的には、戸籍を収集するなどして、相続人となりえる人全員の相続放棄をする手続きを進められるように話しておくこと、段取りしておくことが重要です。

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