はじめに

お互いに質問をぶつけ合う“直接対決“

2社のプレゼンを受け、後半はセゾン投信・中野社長をモデレーターとした、“直接対決”のセッションへ。

両社には「投資で社会をよくしたい」という共通する思いがありますが、異なった運用方針や具体的な数字も挙げながら、それぞれの違いを深掘ります。

――運用のプロ以外を雇うのはリスクではありませんか?(藤野氏から草刈氏へ)

まずは、投資をゼロから学び、アナリストを経てファンドマネージャーになった草刈氏への少しイジワルな質問から。

「メリット・デメリットで考えると、たしかにキャッチアップするために時間がかかるなどのデメリットはあると思います。一方で、“業界ではこれが常識ですよ”というようなステレオタイプな見方に染まっていないことは強みだと思っています」(草刈氏)

実はセゾン投信を創業する際に、澤上篤人氏から多くの教えを請うたという中野氏。「とにかく既存業界以外から人を集めろ」ということもそのなかのひとつでした。

「もちろん経験や知見は財産となって投資に活かせるが、業界に長くいる人は“毒がまわっている”ことがある。まったく新しい価値観でものを見ることができるということは、
脅威でもあると思いますね」(中野氏)

――ひふみの売買回転率は高いと思いますが、どう考えていますか?(草刈氏から藤野氏へ)

実際にスライドに出された数字(上図)には、大きな違いが。「ひふみは長期投資をしないんですか?」という、こちらも攻めの質問です。

「回転率が高いのは特色でもあると思います。例えば、長く持っている会社に『JINS』がありますが、実は株価の変化に応じて保有比率を何度も変えています。全体のなかでみると、売り切っている銘柄は5%程度で、残りの95%は持ち株率が上がったり、下がったりしていると思っていただければと思います」(藤野氏)

――リスクに対してのリターンという観点から見れば、シャープレシオは高いほうが効率的な運用です。しかし、この数字が随分違います(中野氏から両者へ)

藤野氏は開口一番、「うちが高すぎるんだと思います」。シャープレシオとは、リスク1単位あたりのリターンを示した指標です。

とはいえ、この数字はウォーレン・バフェットのバークシャー・ハサウェイでも0.8程度。「さわかみファンドも高い方ですよ」と中野氏もいうように、さわかみも「遜色ない値です」(藤野氏)。

では、なぜひふみはこの数字が突出して高いのか? 同社が取るリスクについてこう解説します。

「一般的に小型株に投資を行うと、高いリスクを取っていると思われますが、僕らのファンドはリスクがめちゃくちゃ小さい。それは組み合わせによるものです。マーケットになにかが起こったときに、バラバラの動きをする株を組み合わせることで結果的にリスクが小さくなっているんです。その一方で、数字には見えないリスクとして景気後退期の“倒産リスク”を内包しています。これは秘訣でもあり、弱みでもあります」(藤野氏)

「リーマン・ショック時にお客さまに迷惑をかけた過去の反省を活かしたい」というのは草刈氏。割安な時に買うバリュー投資によって、同社では“守って増やす”ことを重視していると解説します。

――大型ファンドになると、理想のポートフォリオを作ることが難しくなるのでは?(中野氏から藤野氏へ)

続いては、中野氏からそれぞれに対して気になることを質問。急成長によって、ひふみは今後、変わらざるをえないのでしょうか?

「大きくなると機動性が失われていく可能性があるので、なにが大切かというと情報分析力です。危険を事前に察知して早めに動く大型船のように、イカリをたくさんつけて、スピードを上げ、逆にパワーを活かした動きをすることが今後、重要だと思っています」(藤野氏)

――さわかみは銘柄数を大きく減らしましたよね。「応援したい会社がたくさんある」と澤上篤人さんはよく言っていましたが、理念が変化したんですか?(中野氏から草刈氏へ)

リーマン・ショック時の経験を踏まえて、いくつかの理由で選んだ新しい方針。しかし、一つひとつの企業をしっかり支えたいという思いはより強くなっています。

「よい企業に対してできるだけ多く投資する、利益確定をする、現金を持っておきたい、この3つをバランス取るために絞り込んだ結果、このようになっています。そのぶん、ひとつの企業に対して投資している額は、実は以前と比べて今の方が大きいです」(草刈氏)

――日本株でいいんですか?(中野氏から2人へ)

「ちなみに僕の結論は大丈夫じゃないです」と質問に続いて話す、中野氏。

「投資初心者は、とりあえず日本株のインデックスファンドから投資を始めれば“安心”です」というような風潮に対して異議を唱えます。

だからこそ、「アクティブファンドの高い存在意義がある」(中野氏)。

藤野氏も「私もまったく同じ気持ちです」と賛同。

「これからの10年間、日本企業全体でみると、より不況になると思っています。GDPの伸び率などより、もっと問題なのは日本の大企業の経営劣化です。時価総額上位の会社が内包するリスクをまるっと引き受けることになってしまうようなインデックス投資は危険ですね」(藤野氏)

多数の大企業の粉飾問題や経営難が報道される昨今。草刈氏も大企業が抱えるリスクを指摘します。

「経営者が目の前の数字ばかりを追ってしまい、本質を見失ってしまうことで大企業の不祥事などが起きているのだと思います。人口が増え続けていくことを前提とした従来のビジネスモデルから転換できない上場企業は厳しくなっていくと思います。ただ、地方の中小企業などにはすごくがんばっている会社がたくさんあり、日本企業すべてがダメなわけではありません。経営者の質がより問われる時代になっていくかと思います」(草刈氏)

そろそろ時間はタイムリミット。レフェリー、気になる今回の“勝敗”は?

「実はアクティブファンドに勝ち負けはないんです。一社、一社が自分たち独自の個性を磨き上げ、それぞれ社会に貢献することが独自運用会社の価値です」と中野氏が美しくまとめて、決着は着かず。

実際に、どの投信を選ぶかは、私たち次第。共感できるファンドに自分の“想い”を預け、世の中をよりよくするための手助けをするというのも、投資の醍醐味のひとつでしょう。

(文:編集部 樫本)

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