はじめに

ESG投資家が投資判断時に活用する情報のひとつに「統合報告書」があります。

これは「財務データ(売上や利益など損益計算書、現預金や純資産など貸借対照表のデータ)」に加え、「非財務データ(経営者の能力や経営理念、社員のモチベーションの高さやスキル、商品開発力、技術力など決算書に出てこない情報)」の両方の観点から企業の方針や経営についてまとめたものです。

近年、発表数は増加基調にあり、2010年時点の23社に対し、20年10月には565社にのぼりました。今回は、個人投資家にとっても有用な統合報告書について解説します。

1_「統合報告書」発行企業数


なぜ統合報告書が求められるのか

企業に対して「統合報告書」の発行が求められるようになった背景に、企業価値と「非財務データ」の相関が強まってきたことがあります。ビジネスの複雑化やデジタル化を背景に、「財務データ」だけを見ても企業価値を判断できなくなってきています。企業は投資家に「非財務、財務を含む企業価値の全体像」を示す必要が出ています。

もう一つの背景は、企業が果たすべき役割が大きく変わってきたことがあります。近年「経済至上主義」ともいえる企業活動が、気候変動や食料問題など地球規模での弊害を生み出していると批判されています。

これらの課題解決に向けて、企業の持つ資金や技術革新、アイデアの活用が期待されています。非財務データによって、企業は重要な社会課題の解決に貢献する力と意思があることを分かり易く説明する必要があります。

統合報告書には何が書かれている?

統合報告書は、単に、財務報告を中心とした「アニュアルリポート」と、社会的貢献を謳った「CSRリポート」を合作しただけのものではありません。

最も重要なのは、企業の長期的な価値創造プロセスを明らかにしていることでしょう。自社のビジネスがどのように成り立ち、それが将来的に、自社や社会にどのような価値を生むのか、事業を通じてどのような価値を創造したいのかを明らかにした「価値創造ストーリー」が統合報告書の主軸です。

統合報告書は、財務価値だけでなく、人材や原材料など、企業が調達する様々な資源をどのような価値(製品やサービス)に変換し、どの程度、貨幣やその他の資源と交換したかという一連のプロセスを示しています。

[PR]NISAやiDeCoの次は何やる?お金の専門家が教える、今実践すべきマネー対策をご紹介