はじめに

成長分野への政策支援は拡大するが、その一方で地方政府財政への懸念も

中長期目標達成に向けて成長分野となるハイテク製造業への政策支援の拡大を見込んでいますが、その一方で、従来政策支援を受けてきたインフラ投資や不動産業などについては、支援が抑えられる可能性が高いと考えています。

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い景気が悪化していた昨年も含め、ここ数年、インフラ投資は中国経済政策の柱となっていましたが、政策支援が成長分野へ傾斜される中で、今年はその規模は縮小される見通しです。

また、不動産投資については、当局は昨年から厳格化スタンスを示しており、資金の成長分野への誘導を目指す中で不動産分野の規制が強まる可能性は高いでしょう。

こうした動きは、インフラ投資向けの地方債発行や土地利用権の譲渡収入に頼っていた地方政府の財政を直撃することとなり、今年は地方政府絡みの財政・債務問題が発生しやすくなる懸念につながります。そのため、こうした地方財政問題への配慮があるかどうかも今年の全人代の注目点になります。 

今年の全人代は例年以上に注目すべき

これまで、今後の中国の大きな変化として、2035年までの長期目標および次期5カ年計画の達成を目指し、ハイテク製造業の内製化に向けた動きが加速することを取り上げてきました。筆者はそれ以外にも、今年の全人代では環境政策および金融政策方針にも注目が集まると考えています。

昨年、習近平国家主席が2060年までに二酸化炭素の実質排出ゼロを目指すカーボンニュートラル目標を表明したことで、環境への取り組みはハイテク製品内製化に並ぶ中国の中長期的な投資テーマとなっています。こうした環境問題への目標達成ついても具体的なタイムスパンや政策支援規模が明らかになると考えています。

また、金融政策については、今年に入り中国人民銀行が政策姿勢を引き締めに転じたとの観測が強まる中で、短期金利や人民元レートに影響が及んでいます。

昨年末の中央経済工作会議にて、政策の急転換を避ける方針が示されており、その直後に人民銀が金融引き締めへ転換したとは考えにくいものの、金融政策姿勢を巡り不透明感が高まっている状況です。こうした状況下、金融政策方針への言及内容にも注目が集まるでしょう。

このように、今年の全人代では、足元の景気回復を受けたマクロ経済政策の変化に加え、中長期目標達成に向けた諸政策ついても言及される見通しです。こうした理由から、コロナ後の中国経済を見るにあたり、筆者は今年の中国全人代を例年以上に注目すべきであると考えています。

<文:エコノミスト 須賀田進成>

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