はじめに
米長期金利の上昇基調は継続の模様
もっとも、今回のFOMCによって、金利先高観を抱く市場とFRBの間の溝が埋まった印象はありません。市場が懸念しているのは期待インフレ率の上昇というメッセージをFRBが軽視しているとみられることです。経済が正常化に向かう中で、1.9兆ドル規模の財政支援はやはり過大と考えるのが自然でしょう。バイデン政権はさらに大規模なインフラ投資計画を公言しています。
こうした中、パウエル議長をはじめFRB執行部は、物価上昇は一時的という姿勢を崩していません。ただ、景気回復期に大規模な財政刺激策が打たれることはあまり経験がないだけに、過去の例は参考にならない可能性も十分考えられます。
また、経済再開に伴って賃金が上昇するリスクも無視できません。前述の米国救済計画では、9月6日まで失業保険の給付額を週300ドル上乗せすることになっています。コロナ禍以前と比べ、雇用主は賃金を引き上げないと人手を確保できない可能性もあるでしょう。
現状では、経済再開後、景気の過熱に伴い物価が相当程度上がりやすい環境が想定されますが、リスクシナリオとして挙げられるのがワクチン接種の停滞です。報道では、共和党支持者の中にワクチン接種に消極的な姿勢が見られるとされています。ただ、3月16日にトランプ前大統領がTV番組において、ワクチン接種を呼び掛けたことで、今後、潮目が変わってもおかしくないでしょう。
この先も基本的に米長期金利の上昇トレンドに変化はないでしょう。FRBが打てる手と言えば、購入債券の年限長期化が考えられますが、持続的な効果は見込みにくいのではないでしょうか。
米長期金利よりも国際商品価格に注目
ただ、ドル円相場を予想する上で難しいのは、米長期金利の上昇が常に円売りドル買い材料ではないということです。たまたま現在はドル円と米長期金利が高い順相関にありますが、決して普遍的な法則ではありません。
過去を振り返れば、両者の相関が低下する時もあれば、逆相関の場合もあります。米長期金利に頼ってドル円相場の値動きを予想することはかなりリスクが高いと言えます。
そこで、より信頼が置けるパラメーターとして国際商品価格を取り上げたいと思います。言うまでもありませんが、日本は大量の資源やエネルギーを輸入しているため、国際商品価格の変動によってドル円相場の需給が歪みます。
昨年は原油価格等の下落により、日本の輸入企業のドル買い需要が減少し、結果として円高に振れやすかったと言えます。すでに、日本の原油や天然ガスの輸入金額は増加傾向にありますが、今後さらに拡大する公算が大きいでしょう。
ドル円は実需のドル買いに支えられ、4月以降に110円超の水準を目指すと予想されます。
<文:投資情報部 シニア為替ストラテジスト 石月幸雄>