はじめに

景気と政策姿勢のズレに見える当局の真意とは

このように、中国経済はまだ回復の途上にあり、全般に政策の引き締めが必要な段階ではないと考えられます。しかし、こうした状況下でも当局が引き締め的な政策スタンスを見せている理由は、その対象分野に隠されていると筆者は考えています。

足元で引き締め的な政策が実施、報道された不動産やIT企業、銀行融資といった分野はいずれも、コロナ禍の悪影響が少なく既に回復がある程度進んだ分野に集中しています。

不動産投資は昨年、景気回復を支える要因となりましたが、足元では当局の抑制にもかかわらず住宅価格上昇が加速するなど過熱感がみられます。IT企業はハイテク企業向けの取引所にて緩い審査基準の下でIPO(新規株式上場)を行う事が可能で、投資家の利益を損なう懸念がある分野でした。銀行部門の融資は昨年コロナ対応で拡大しており、野放図な信用拡大を容認すれば、資産バブルへとつながる懸念もあります。

つまり、充分に回復した分野への支援を抑え、将来的なリスクの芽を取り除くということが足元での当局による一連の引き締め的な政策実施の意図であったと考えられます。その上で、ハイテク製造業内製化といった成長分野や、中小企業などのコロナ禍の影響が残る分野へ政策支援を集中させるという、メリハリの利いた政策対応を行うことこそが当局の真意である、と筆者は考えています。

党大会を来年秋に控え、景気安定化を目指す動機は強い

中国では2022年の秋に5年に1度の党大会が開催され、次期指導部が選出される見通しです。しかし、現時点では後継者候補が現指導部におらず、習近平総書記(国家主席)が異例の3期目に突入する可能性が高いとされています。

党大会で習氏の3期目を決定するにあたっては、国家運営手腕が問われることになります。こうした政治的なスケジュールも考慮すれば、中国指導部は、今年は、過度な引き締め政策の実施に伴う景気不安定化も、引き締めを行わないことによる景気の過熱も望んでいないと考えられます。

筆者は、中国当局は景気への悪影響を限定的な範囲に抑えた上で、懸案となっている構造改革を進めていくと見込んでいます。従って、今後も不動産や銀行部門融資などに関する引き締め的な姿勢はある程度続くとみられ、それに伴い、不動産投資の鈍化や企業のデフォルトが発生するとみています。また、IT企業への統制を巡る動きも続くとみられ、これらは資産市場では悪材料視される可能性があります。

こうした悪材料が散見される一方で、当局が景気の安定化を最優先に掲げていること、そして政策支援の恩恵を強く受ける分野もあることは、留意しておく必要があると考えています。

<文:エコノミスト 須賀田進成>

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