はじめに
環境政策でサプライチェーンを再構築?
国境炭素税の課題は、貿易ルールの変更を通じて、世界的な貿易戦争に繋がりかねないことにあります。
経産省「クライメート・イノベーション・ファイナンス戦略2020(案)」によれば、貿易に体化されたCO2 排出量(=消費ベースCO2排出量-生産ベースCO2排出量)について、正味輸出国は中国やインド、ロシア等の新興国で、日欧米など先進国は正味輸入国です。
先進国は製造業の生産を中国やインドに依存し、製品を輸入しているため、新興国でのCO2排出の一部は、先進国の消費に誘発されたものと考えられます。
国境炭素税が導入されると、新興国の製造業の優位性は低下し、生産拠点の一部がGHG排出量の少ない先進国に回帰する可能性が出てくるでしょう。製造業の立地条件は、かつては賃金格差や法人税格差でしたが、将来的に、カーボンプライス格差に取って代わるかもしれません。
コロナ対策や米中覇権争いの激化を受けたサプライチェーンの再構築は、今後、カーボンプライス格差によって促される可能性もあるでしょう。
世界で加速する「脱炭素」の動き
今年11月のCOP26では「カーボンプライシング」について何らかの合意に至る可能性があります。日米欧が進める「グリーン・リカバリー」政策は、環境政策やコロナ禍での経済政策だけでなく、国際競争力強化のための産業政策として意識せざるを得なくなるため、衝撃的なイベントになると言えるでしょう。
競争力の強化には、自国内でクリーンなエネルギーを調達することが必要です。発電電力量に占める火力発電の割合が高い日本を始め、世界各国で脱炭素の動きが加速することになるでしょう。
日本では4月9日、2兆円基金の配分対象となる18事業が公表されました。洋上風力発電や太陽光発電の低コスト化や水素の供給網の確立、自動車用蓄電池の開発などの詳細を決定し、2021年度上期にも事業に着手する計画です。
<文:チーフESGストラテジスト 山田 雪乃>