はじめに
お金の問題:「株式会社」をどう引き継ぐか?
現社長から次期社長に、事業承継する計画を立てようとすると、お金の問題と人の問題があります。先に、お金の問題ーー「会社株式」をどう引き継いでいくかを見ていきましょう。
業績の良い会社は株価の算定をすると高額になっている場合が多く、亡くなってから引き継ぐと一定額以上の財産があるとすれば「相続税」、生前に渡していくと「贈与税」がかかる場合があります。株式を引き受けるための資金や税金を用意することができず、頭を抱えている経営者も多いのではないのでしょうか。
この状態を打破しようと、国は2018年4月事業承継税制の「特例措置」をスタートしました。これは従来の一般措置に比べて期間限定ですが、使いやすいものになりました。ある一定の要件のもと、事業を継続させている限り、税金の猶予や免除されることになり、株式の贈与税や相続税もゼロで後継者に渡せる道ができたのです。ただ、事業を続けることができなくなるなど、要件を満たすことができなくなると、猶予も免除も適用が無くなります。この点は注意が必要です。
人の問題:後継者候補を頼りないと思い、すべてを任すことができない場合は?
長男を次期後継者にと考えてはいるものの、まだ頼りないと思っている悦男さんは、経営を長男に任せてみようとしました。しかし、思わぬ方向に行ってしまうことが心配でなかなか任すことができずにいました。こんな場合には、「戻せる贈与」で一旦任せてみる、という方法もあります。
株式を生前に贈与してしまうと、「しまった」と思っても自分に株式を戻すことができません。一定金額以上の贈与は贈与税も課税されます。そこで、贈与ではなく「信託」という方法で、社長が委託者となり、長男を受託者とし、経営権を持たせてみるということができるのです。
「信託」ならば贈与税がかからず後戻りも可能
信託には登場人物が3人います。
(1)委託者(株式を持っている社長)
(2)受託者(株式を託され実際に会社経営する長男)
(3)受益者(受託者が会社経営して出た配当を受ける社長)
上記のように(2)受託者(株式を託され実際に運用する長男)は、会社の経営権を得ます。決算書には株主として記載されるのです。この(1)委託者と(3)受益者を同一人物にすることで、長男に株式の名義が変わったとしても課税されることはありません。
信託は「契約」です。信託契約書を作成し、社長と長男が契約するのです。契約は、法律に反しない限り自由に決めることができます。社長は長男が経営に向いてないと思ったときには、受託している株式を委託者に戻すことができる旨の記載を信託契約書に入れておけば、株式を長男から社長に戻すことができるのです。
長男の経営「お試し期間」ができるというわけです。信託の場合、株式を社長に戻しても贈与税は一切かかりません。
早めに専門家に相談を
お金(株式)と人の問題は、一度決めてしまうと、取り返しのつかないことになる不安があるために進まないのであれば、社長が判断能力のあるときに、「戻せる贈与」の活用も考えてみてはいかがでしょうか。
ただ、長男が経営権を持ったとしても、株式の所有者は社長のままなので。社長の相続発生時には相続税が課税されることになります。納税資金の対策は必須です。信託契約書は自己流で作成することのないようにしましょう。税金の問題も必ず出てくるので税理士等の専門家に相談することをお勧めします。
相続診断士:藤井利江子