はじめに
じわじわと近づいてきた楽天証券の影
決算の数字を比較してみると、SBI証券の営業収益が904億円(さきほどの数字はホールディングスの連結売上で、この数字はSBI証券単体の売上に相当します)に対し、楽天証券の営業収益は467億円。規模ではSBI証券の方がずっと大きいとはいえ、不気味な伸び方で楽天証券がSBI証券を追走しています。
実は楽天グループでは、楽天証券、楽天銀行、楽天カードの金融ビジネスが徐々に拡大し、楽天市場に次ぐ事業の第二の柱に育ちつつあります。
その最大の強みは楽天グループ全体でのポイント連携。楽天証券の口座開設や株式や投資信託の取引をするごとに楽天市場で使えるポイントが貯まる。そのため楽天市場が好きな人は、証券取引もまず楽天証券からという流れができ始めているのです。
実はこれ、SBI証券にとって「現在はさほど痛くなくても、将来的には大きなダメージになる可能性がある」競争です。
初心者の囲い込みで勝つのは?
楽天証券のポイント連携が強みとなり、「なんとなく興味があるので株を始めてみようかな」という個人が、はじめての株式取引を楽天証券で行うというパターンが定着していきます。
楽天証券の発表では、「楽天証券の口座保有者の52%が楽天市場のユーザー」だと言います。口座増加数で見ても、2017年1年間での口座増加数はSBI証券が27.6万口座増なのに対して、楽天証券は21.0万の増加。シェアの差と比べると、ずっと近いところで楽天証券は迫ってきているのです。
新規で株を始める人は若い方が多いですし、基本的に皆、初心者です。そのため両社の収益に与える影響は当初はあまり大きくはありません。
しかし、十年もすればそのユーザーのなかから利益に貢献する重要顧客が育ってきます。売買量が多いデイトレーダーや、ボーナスなどのまとまった額を株や投資信託で運用するような個人投資家がそこから出てくるのです。
その将来のための“入り口”で、楽天証券に大きく近づかれているのは経営として問題を感じるところ。では、若い投資家を取り込むために効くのはなんでしょうか? それはやはり「安さ」だということになります。
投資初心者がはじめての株式投資をする場合は、やはり10万円以下で買える株式からということになるでしょう。実際に今、日本の上場企業の3分の1の株式は、この価格帯で買うことができます。その際の株の売買手数料が、「SBI証券ならタダになりますよ」というのが今回の価格変更の狙いというわけです。
はじめて株式を売買するユーザーを獲得する。まずはここで負けないようにするというのがSBI証券の戦略的な狙いです。
とはいえ、対応力の早さがネットの強み。楽天証券も9月から10万円までの取引手数料を無料とすることを発表し追随。そして実は松井証券はすでに1日10万円以下の取引を無料としており、初心者マネーを狙う戦いは今後も続きそうです。