はじめに
「投資家」というと経済の知識に長け、お金の感覚に鋭いイメージ。しかし、今は順当に資産を築いている投資家も、最初から手練れだったわけではない。彼らはどんなきっかけで投資に関心を持ち、どうやって現在のスタイルを確立したのか? また現在、いかに投資と向き合っているのか?
そこで今回は、著名なインデックス投資ブロガーにインタビュー。「ビギナー時代」の話から現在の投資スタイル、その考え方などを聞いてみた。
今回お話を聞いたのは、会社員投資ブロガー『吊られた男』さん。趣味はフットサルと家族との山登り
結婚を機に、お金のことを「本気で」考え始める
お話をうかがったのは『吊られた男』さん。「吊られた男の投資ブログ(インデックス投資)」を運営する、人気の投資ブロガーだ。会社員のかたわら、投資信託を使った低コストインデックス投資、パッシブ投資で資産形成を行っている。
まずは、投資を始めたきっかけを聞いた。
「きっかけは、2002年に勤務先の会社が確定拠出年金を導入したことです。当時、僕自身は投資にほとんど関心がありませんでしたが、流れで始めてみることに。ただ、積極的に『投資している』という感覚はなかったですね」
――ちなみに、その頃はどんな運用を?
「今と同じで、インデックスファンドですね。とはいえ、自分の中で『インデックス投資』をやっているという意識はなく、ただ金融機関に高い手数料を払うのが嫌だったのでインデックスファンドを選んでいました」
――では、「積極的に投資」するようになったのはいつからですか?
「本格的に始めたのは2007年7月。前年に結婚し、さすがにお金を貯めなければと考えたときに、ただ預金口座に寝かせておくのはもったいない、少しでも有利な条件のところに置いておきたいということで、投資に行きつきました」
――奥様はなんと? 反対されませんでした?
「特になにも。最初に、共働きで私の給与からのみ投資資金を拠出し、妻の給与は預金口座へ入れるというルールだけは決めましたが、基本的にはお任せでしたね」
「吊られた男の投資ブログ(インデックス投資)」。インデックス投資にまつわる基礎知識や最新情報の発信、運用報告を行う
投資歴は15年 長く続けるポイントは「損失への心構え」
――2002年が投資デビューとすると、投資歴は15年。途中で挫折する人も多いと思いますが、長く続けるポイントはあるのでしょうか?
「確かに、投資って継続が一番難しいんですよね。続けるうえで最も大事なポイントは、想定される損失が出たとしても生活に支障が及ばない範囲の投資にとどめておくこと。あとは、精神の安定ですね。損失が出たからといって過剰に落ち込まないでいられるよう、備えておく必要があると思います。
たとえば共働きで稼ぎ口を複数にしておけば、『数十万円程度損しても、まあいいか』と思えるかもしれません。あるいは、いつでも生活コストを下げられるような心構えを持っておく。『損したら、それだけ贅沢を減らせばいいか』という気持ちになれるので有効だと思います」
――確かに、目先の損得に一喜一憂しないというのは、長期投資ならではの心構えですよね。では、投資法として継続しやすいものはありますか?
「いろいろと実践してみて、自分に適したものを選ぶのが一番だと思いますが、私の場合は当初から一貫してインデックスファンドでの分散投資がメインです。
2007年にはFXも試したのですが、リーマンショックへ至る円高によって数十万円の損失を出し、撤退しました。値動きを見て売買するような投資は感情的になったり、そのことばかりを常に気にしてしまったりするので、自分には性に合わないようです。
インデックス投資一本に絞ってからは、投資について考えることがほとんどなくなりました。ブログのネタとして投資の情報は集めていますが、それがなければほとんど頭の中にない。物理的にも、1カ月に1回程度、口座にログインして購入するくらいしかやっていません。そういった意味でも、続けやすい投資法ではあると思います」
先進国株式の割合がやや多めだが、3つの投資先にほぼ均等な割合で投資している。 図:藤田としお
投資のおかげで「世界のことがわかるようになった」
――ちなみに、ブログに書く投資情報ってどこから収集しているんですか?
「主に、私と同じく投資信託をやっている投資家のブログを読むことです。インデックス投資に使える情報の収集は、それでほぼ賄えます。ニュースはロイター、ブルームバーグ、CNNあたりをチェックしています。世界の情報を網羅しているので、世界分散投資とは相性のよい情報ソースです」
――投資に関する情報だけでなく、幅広い知識が身につきそうです。
「確かに経済や金融だけでなく、世界情勢などについても詳しくなったと思います。また、生命保険や税金について考えるなど、投資以外のお金全般にまつわる知識が身につきましたね。それによって、私生活での支出などにも変化が現れましたし、自分の親など金融知識に長けているわけではない人の『お金の相談』に乗れるようにもなりました」
――さまざまな付帯効果があったわけですね。資産形成のために始めた投資が、生活そのものにもいい影響を与えていると。
「もちろん、お金に対する不安がなくなったというのが一番大きいですけどね。投資の利益はもちろん、収入の中からコツコツと投資の原資を捻出していくうち『収入>支出』で生活していく習慣も身につきました。お金がなくて困る、それを気にして生活する必要がないという状態は本当に心地よくて、投資をやっていてよかったなと思います」
(文:榎並紀行/やじろべえ)