はじめに
今回も市場の期待が前のめり過ぎただけ?
米6月雇用統計発表後の市場は乱高下しました。ファーストリアクションは強いNFPを受けてドル買い、米国債利回り上昇となりました。しかし、すぐにドル売りも出て、米国債利回りも低下しました。失業率が予想比かなり悪かったことで、ポジションを一方に傾けることに慎重になったのかもしれません。
また、短期の投機筋やA.I.が強い米雇用統計を予想して、ドル買いポジション、米国債売りポジション(金利上昇ポジション)で米6月雇用統計を迎えて、ポジションをアンワインドする動きになったのかもしれません。
毎月の繰り返しになりますが、米6月NFPに対して市場期待が強まった背景は、6月30日に発表された米ADP雇用統計(民間雇用)が、市場予想の前月比60万人増に対して同69.2万人増であったことと思われます。過去を見ると、ADP雇用統計とNFPが乖離する場合も多く、筆者はNFP予想にADPはほとんど使用していませんが、米FRB当局者が米雇用回復に対して自信を示していることで、気持ちと短期筋ポジションは前のめりになりやすかったものと思われます。
米雇用回復を妨げている要因
ワクチン接種が進んでいる米国において、雇用回復ペースが鈍い要因を米FRB当局者たちはいくつか挙げています。
(1)米失業保険給付の追加支給延長(9月6日まで)によるもの。
安い賃金(時給)で雇用につくよりも、失業保険を受給してる方が高い収入になるので、敢えて就業しない人がいる、というものです。ただこれに関しては、米共和党出身知事の州(赤の州)を中心に、既に米19州で失業手当ての給付金が削減されている。
(2)学校が完全再開(面談授業)していないために、子供を持つ(主に母)親が就業できない。
(3)一部の州で接種が進んでいない(何らかの理由で接種を拒む米国人が多い)
比較的米共和党支持者が優勢と言われる州(赤の州)での接種率が伸び悩んでいるようです。
NYタイムズ紙によると、7/2現在、米国民で1回目のワクチン接種が終わった人の割合は54.7%で、18歳以上では66.8%になります。18歳以上の接種率が最も高い州はバーモント州の85.3%。人口が多い州では、ペンシルベニア州75.6%、カリフォルニア州74.8%、ワシントンD.C.72.7%、NY州72.4%となっています。一方で、18歳以上の接種率が低い州は、ミシシッピ州46.3%、ルイジアナ州49.0%、ワイオミング州49.6%、アラバマ州50.2%テネシー州52.0%ウェストバージニア州52.4%・・・、と赤の州が占めています。
上記のうち、(3)に関しては、日本人の筆者には何とも言えませんが、来年の米中間選挙に影響が出て来るかもしれません。(1)と(2)に関しては、9~10月の米雇用回復ペースアップにつながる可能性が高いと思われます(米国の新学期は10月から)。米FRB当局者の発言を見ていても、9~10月ぐらいからの米雇用回復を期待している向きが多いようです。
逆に言えば、米FRB当局者は現状の労働市場のひっ迫は解消されると予想しており、6月、7月、8月の米雇用統計で一喜一憂する必要はないでしょう。短期投機筋は別ですが…