はじめに

欧米株と日本株の差がさらに広がる?

アジアにおけるデルタ型の感染拡大の影響は日本企業にも及んでおり、複数の企業がアジア地域で工場の稼働率を落としています。世界的な供給制約の中での生産減少は業績に大きく響きます。

一方、欧米ではすでにアフターコロナの世界が見えてきています。大谷選手の活躍するメジャーリーグの中継や東京五輪の閉会式で映し出されたパリの様子など、欧米におけるマスク無しの群衆は日本のテレビでもおなじみの光景となっています。こうした中、FRB(連邦準備理事会)のクラリダ副議長は「年内のテーパリング開始発表を支持する」と発言し、金融緩和の縮小がいよいよ本格化してきています。

これまで筆者は新型コロナウイルスの感染拡大は必ずしも株価にネガティブではないと繰り返してきましたが、それは感染拡大を受けた金融・財政両面での政策対応によって株価が支えられることが前提です。アジアで感染が拡大しても、米国で感染が拡大しなければFRBによって金融政策は引き締められてしまい、世界的なリスク資産の調整が促されます。

株価=業績(EPS、一株当たり利益)×バリュエーション(PER、株価収益率)ですが、日本株にとってはデルタ型の感染拡大によって事業に占める割合の高いアジアを中心に業績が抑えられ、FRBによる金融緩和縮小によってバリュエーションも縮小するといった事態に陥りかねません。

アジアから資金が撤退している?

それ以外にも、中国は米国との対立という問題を抱えています。中国による米国産農作物の購入はトランプ政権との合意内容を大幅に下回っており、かつては中国との貿易戦争を批判していたバイデン大統領も対中関税を取り下げる気配はなく、半導体関連を中心とした対中制裁も続けられています。

内政面でも、中国政府はインターネット、半導体、教育といった成長産業に強力な規制を発動しており、特に学習塾運営に当たっては「非営利団体を目指すべき」といった衝撃的な内容の通達を出したことで関連銘柄の株価はピークの10分の1以下にまで落ち込んでいます。中国は短期的にはデルタ型の封じ込めに伴う経済減速、長期的にはこうしたビジネス環境の悪化という事業リスクを抱えています。

中国株が高値から30%を超えて下落したことを考えると中国向けの投資を引き揚げる動きはすでに出てきていますが、海外投資家による日本株の売り越し基調は続いています。中国から抜けた資金が日本に入っている様子はうかがえず、むしろアジア全体から資金を引き揚げる動きすら感じられます。

米国株は最高値を更新していますが、日経平均株価は2月につけた3万円越えの高値まで遠い水準です。業績、バリュエーション、需給のいずれに対しても逆風が吹く中、日本株の外国株対比での出遅れはさらに深刻化しかねない状況です。

※内容は筆者個人の見解で所属組織の見解ではありません。

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