はじめに
今年7月2日、中国ネット規制当局は、配車アプリ運営大手の滴滴出行(以下、ディディ)に対して、国家安全を守るための調査を開始すると発表しました。ディディは6月30日に米国ニューヨーク市場でIPOを行ったばかりで、上場前に中国当局は配車で収集した機密データが米国に流出することを懸念して、同社に上場延期を求めていました。
ディディは中国当局の意向の背いでIPOを強行したため、配車アプリの配信が停止させられ、これを受けて同社の株価は暴落したほか、米国と香港に上場する中国の大手IT企業の間でも政策リスクを巡って大きな動揺が広がりました。ディディの場合、主に国家安全保障上の事情で規制された格好ですが、中国では昨年から独禁法違反で規制されたIT企業も多く、今回はその背景と中国当局の狙いについて考えてみたいと思います。
中国当局はIT企業の独占・違法行為に対する調査を強化
中国当局が大手IT企業に対して規制を強化し始めた時期は、国内景気が新型コロナ禍から完全に立ち直った昨年末以降です。昨年11月にアリババ・グループ傘下のフィンテック会社であるアント・グループのIPOが急きょ中止に追い込まれ、12月にアリババ・グループに対する独禁法調査が開始されました。
その後、今年4月に大手フードデリバリー企業である美団点評、6月に冒頭のディディが次々と独禁法調査の対象になり、このほか過去のM&A・合弁に対する未申請、価格の不正操作など様々な理由で多くのIT企業が処罰されました。
この一連の処罰・規制によって、株式市場ではアリババ・グループやテンセント、JDドットコム、バイドゥ、ネットイース、クアイショウといった大手IT企業の株価が大幅に下落し、規制の着地点が見えない中で今年7月の「ディディ・ショック」は政策リスクに対する投資家の不安を増幅させる形になりました。
<写真:ロイター/アフロ>