はじめに

中国のビッグテックが規制された背景

中国の大手IT企業が次々と規制された背景としては、冒頭で述べた国家安全保障上の事情以外に、各社の独占・寡占に対する社会的な風当たりが強まったことが考えられます。

近年、アリババ・グループやテンセント、美団点評、バイトダンスなどに代表される中国のビッグテックは、Eコマースやフィンテック、SNS、ゲーム、飲食・レジャー、動画など様々な分野で巨大なプラット―フォームを築き、ユーザーや加盟店、取引先から多額な利益を吸い上げています。蓄積された利益は新興企業の買収や先行投資に充てられ、ビッグテックの繁栄を支えたとともに数多くのユニコーンを資本市場に送り出しました。

今までビッグテックの発展は確かに国民の利便性向上と経済成長に大きく貢献しましたが、業界の独占・寡占が進むのにつれて様々な弊害が目立つようになりました。例えば、アリババ・グループは加盟店の他サイト出店を禁じる「二者択一問題」、テンセントは「青少年のゲーム中毒問題」、美団点評は「配達スタッフの酷使問題」、アント・グループは「行き過ぎたオンライン融資問題」などで社会的な風当たりが強まっています。

このような状況を放置すれば、経済の活力が失われるだけでなく、更なる富の不均衡や国民の不満を招きかねないため、中国当局はその是正に乗り出したと考えられます。

「競争の促進」と「国民の負担軽減」で経済の活性化を図る

ビッグテックの独占・寡占に対して、中国当局は公平かつ自由な競争を促進することで加盟店と利用者の権益を保護し、行き過ぎた行為を規制することで国民の不満解消を図ろうとしています。その成果の一つとして、アリババ・グループとテンセントは年内にもサービスの相互受け入れを開始する見通しで、実現すれば加盟店と利用者が恩恵を受けるだけでなく、両社にとってもメリットがデメリットを上回る可能性があります。

また、中国当局は個人消費を圧迫している「住宅購入費」、「教育費」、「医療費」に着目し、現役世代の負担軽減と少子化問題の改善を図るために、不動産や教育、医薬品関連企業にも規制のメスを入れています。今年7月末、中国当局は国内の学習塾運営企業に対して、非営利団体への転換を含む包括的な規制案を発表したほか、不動産の投機抑制によって大手不動産デベロッパーである中国恒大集団が苦境に陥るなど、今までの枠組の中で高い利益率を享受してきた「勝ち組」企業が方針転換を迫られています。

経済構造転換で内需拡大の必要性がますます高まるなか、中国当局はビッグテックの既得権益化を防ぎつつ、国民の負担軽減を図ることで経済の活力を引き出そうとしています。その過程において、当局の規制は企業にとって劇薬になるものの、中長期的に見れば効率化や消費を促進することになるでしょう。

今後は規制の着地点を見極めながら、イノベーションを生み出す資本力と研究開発力を持つビッグテックの変革に注目したいと思います。

<文:市場情報部 アジア情報課 王曦>

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