はじめに

重要イベント前で失敗できない習近平政権

恒大の債務リスクは中国の国内問題にとどまるという点も、グローバル金融危機に発展したリーマンショックとは異なる点です。

日銀の黒田総裁は、「あくまでも当該企業、中国の不動産業の問題として捉えるのが適切」と述べ、同様の問題が他に起こる可能性は今のところ低いとの見方を示しています。FRBのパウエル議長も「中国恒大の状況は非常に中国特有のものと見受けられる」と異口同音に述べています。

この問題が「リーマンショックの再来」とならない理由の根本は、(トートロジーに聞こえるかもしれませんが)中国政府が「リーマンショックの再来」とならないようにコントロールするからです。リーマン・ブラザーズ証券の破綻はグローバル金融危機の象徴的事象に過ぎません。それでも、それをきっかけに危機が本格化していったことは確かで、無秩序な破綻は危機を招くということを中国政府は学び、しっかりと認識しているでしょう。

今後、中国では2022年2月に北京冬季五輪、そして同年秋には5年に1度の共産党大会と重要イベントが続きます。2018年3月の憲法改正により、国家主席・国家副主席の任期は撤廃され、習近平氏は2022年の共産党大会で終身国家主席となることを狙っています。そのためには経済的、社会的混乱はなにより避けたいはずです。

ここで恒大を突き放して破綻させては、混乱は必至です。そうならないように政府が介入し、債務の延長や銀行に債権放棄をさせたりしながらソフトランディングを図るでしょう。

Bloombergのシニア・エディター、ジョン・オーサーズ氏によれば、中国恒大が本拠を置く広東省の規制当局は会計や法律の専門家を派遣したが、その中には事業再編を専門とする法律事務所キング&ウッド・マレソンズが含まれるといいます。当局主導による債務再編がメインシナリオだと思います。

<文:チーフ・ストラテジスト 広木隆>

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