はじめに

私たちが将来安心して暮らしていくための制度として、年金制度があります。日本の年金制度は現役世代が納める保険料で、その時々の高齢者世代に年金を給付する「賦課方式」が基本です。

GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)はこの年金積立金を国内外の資本市場で運用し、その運用収益や元本は概ね100年の財政計画の中で、将来世代の年金給付を補うために使われています。


長期利益確保にはESGが重要

世界最大級の年金基金であるGPIFは、長期的な利益確保のためには、投資先企業のガバナンスの改善に加え、環境・社会問題が金融市場に与える負の影響を減らすこと、つまりESG(環境・社会・ガバナンス)を考慮することが重要だと考えています。

ESG活動を通じて金融市場全体の持続可能性を高めることは、経済の持続的な成長を促し、運用資産全体の長期的なリターンを向上させていくでしょう。このような方針のもと、GPIFは2017年度に国内株式を対象とした3つのESG指数に基づく運用を開始しました。

2021年3月時点のESG投資額は11.7兆円

GPIFは「2020年度ESG活動報告」で、総額186兆円の年金資産全てについて、その運用プロセス全体を通じてESGを考慮した投資を推進していることを明らかにしています。
2020年度は新たに「MSCI ACWI ESG ユニバーサル指数」を1兆円規模、「Morningstar ジェンダー・ダイバーシティ指数」を3,000億円規模で運用し始めました。

多くの実証研究は、ジェンダー・ダイバーシティ(多様性)に富む企業は幅広い人材により、変化が激しい現代の多様な価値観に対応し易く、優れた経営パフォーマンスを上げる可能性があることを示しています。GPIFはこのような企業への投資により、投資先や市場全体の持続的な成長による長期的な収益を確保していく姿勢を持っています。

今年3月時点のESG投資額は、狭義のESG投資ともいえる、ESG指数に基づく運用資産額は10.6兆円、グリーンボンド等への投資額は1.1兆円となり、総額11.7兆円にのぼります。

GPIFのESG投資のパフォーマンスは?

GPIFが選定したESG指数の2021年3月までの4年間のパフォーマンスを見ると、親指数及び市場平均(国内株はTOPIX、外国株はMSCI ACWI(除く日本))を概ね上回っています。

ESG投資は長期にわたるほど、リスク調整後のリターンを改善する効果が期待されます。GPIFが投資するESG指数1~4については、TOPIXよりもESG評価が高く、過去4年間の収益率とリスクを用いた「シャープ・レシオ(投資先全体のリスクに対する収益率の比率)」も高い(運用効率が高い)傾向がみられます。

長期的な検証は必要ですが、運用効率の改善とESGリスクの低減は両立されるといえそうです。

国連PRI(責任投資原則)によれば、世界のESG投資残高は2020年に40.5兆ドルと世界全体の運用資産残高の約40%を占めています。

これに対し、日本全体のESG投資残高は20年に2.9兆米ドルへ拡大したものの、その割合は24.3%と主要市場に後れを取っています。また、GPIFのESG投資残高も全体の6%程度です。今後、日本でもさらにESG投資資産が積み増されていくことが期待されるでしょう。

<チーフESGストラテジスト:山田 雪乃>

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