はじめに

数ヵ月後に同じ事態にも

今回の上限抵触危機は8月1日に発生しました。これは2019年8月に当時のトランプ大統領の署名によって成立した、債務上限を2年間適用除外とする法律が期限を迎えたことによるものです。

9月29日に民主党が多数派を占める下院は、債務上限の適用を2022年末まで除外する法案を可決しました。しかし、上院では共和党の勢力が強いほか、同時に審議されているインフラ投資法案の規模と中身を巡って民主党内でも内部対立が発生しています。

イエレン財務大臣は9月28日の議会証言で、「10月18日までに債務上限が引き上げられなければ米政府は手元資金をやりくりする手段を失いデフォルトに陥り、金利上昇と景気後退の引き金を引きかねない」と述べています。また、FRBのパウエル議長も9月22日のFOMC後の記者会見で、「債務上限が引き上げられなければ経済と金融市場が著しいダメージを受ける」と述べています。

さらに、大手格付け会社の一社も「債務上限問題は米国のAAA格付けをリスクにさらしている」と警告しています。10月7日に債務上限を12月まで短期的に引き上げる法案が成立しましたが、このままでは数ヵ月後に同じ事態に陥ることになります。

過去の債務上限抵触期間中、市場はどう反応した?

過去の債務上限抵触時に市場はどう反応したのでしょうか。筆者の集計によるとこれまで米債務が上限に到達したことは1995年以降で13回あります。期間もさまざまで、1ヵ月以内に解消されることもあれば半年以上にわたって長引くこともあります。

まずは株価です。意外かもしれませんが、債務上限問題が大きな株安につながったケースは2002年5月や2011年8月などに限られます。また、2002年5月は米企業で相次いだ不正会計問題、2011年8月は欧州債務危機のさなかにあったことを考えると、債務上限問題だけが株安の理由でもありません。

債務上限抵触期間中のS&P500の平均日次騰落率は+0.04%と、全期間平均の+0.04%と全く差がありません。債務上限への抵触がただちに株安につながるというわけではなさそうです。

債券も株と同様にまちまちの動きとなっています。債券発行が滞ることで、特に比較的短い金利の需給には変化が現れると見られますが、債務上限抵触期間中の米2年金利の平均日次騰落幅を見ると-0.03bpとなり、全期間平均の-0.11bpよりもむしろ金利は下がりにくくなっています。ただ、2019年のように大幅な金利低下となるケースもあり、傾向ははっきりしません。

よりトレンドがはっきり出ているのが為替です。過去13回の債務上限抵触期間のうち、11回でドル安となっています。日次騰落率も-0.05%となり、全期間平均の+0.00%よりはっきりとドル安となっています。

以上をまとめたのがこちらの表です。

米国債のデフォルトは世界全体を大混乱に陥れかねない以上、最後に何らかの妥協が行われるのはほぼ確実です。市場はそのことを見越しているため、結果として今回も過去と同様に米債務上限問題が及ぼす市場への影響は限定的になると見ています。ただ、過去の傾向を見ると、今回も債務上限の期限が迫るにつれて法案をめぐる紆余曲折がドル安要因となる可能性はありそうです。