はじめに
遺言書の内容は…
公正証書遺言が出てきて一安心したものの、ミチコさんの想いは複雑でした。長年会っていなかった父親の遺言書……。「きっと和子さんの生活を心配して、財産全部を和子さんへという内容だろう」と思っていました。
手許に届いた公正証書遺言の内容は、「自宅不動産は和子さん。不動産以外の財産の4分の3を和子さん。4分の1をミチコさんへ」というものでした。ミチコさんは、まさか自分にも配慮された遺言書が出てくると思っていなかったので、驚きました。また、この遺言書には遺言執行者が指定されていました。
遺言執行者が指定されていたおかげで、和子さんやミチコさんが相続手続きに動くことなく、遺言執行者が遺言書に記載の財産の手続きをすべて行い、葬儀費用の立替の清算も終わりました。
和子さんの体調不良の中、手続きを滞りなく終えられてことに、ミチコさんは安心しました。さらに、この遺言書には父親から和子さんとミチコさんへ【付言事項】として最後のメッセージも記されていました。
「付言事項」に書かれていたこと
【和子へ】
「夫婦二人で過ごした日々、いつも迷惑をかけてきたけど、長い間ありがとう。体が強い方ではない和子に少しでも負担が軽くなるようにと、この遺言書を遺しました。~省略~」
【ミチコへ】
「ミチコ、元気にしているだろうか。ミチコの母さんと別れることになり、父親のいない家庭で過ごさせてしまったことを申し訳なく思っている。ミチコのことを考えなかった日はない。この遺言書でミチコに遺した財産は、ミチコがわたしの子どもだという証、どうか受け取ってほしい。そして悔いのない人生を送ってほしい。それがわたしの願いです。」
ミチコさんは、この付言事項により父親がずっと気にかけてくれていたことを知り、このメッセージを大事に取っておくことにしました。
遺言書で相続人の負担を減らすことができる
相続手続きのために、遺言書を遺しておくことは大切です。特に相続人の誰かに今回の和子さんのように体調が思わしくなく手続きが進まないかもしれないと思う人がいる、または認知症等で判断能力が不十分な人がいる場合は、成年後見人を選任してから遺産分割協議を行うことになります。そのため、相続手続きが長期になったり煩雑になる可能性があります。
今回は、遺言書があったおかげで、これまで面識のなかった和子さんとミチコさんが遺産分割協議をすることなく、遺言執行者によって手続きが行われました。和子さんもミチコさんも精神的な負担が少なくてすんだのです。大切な家族に財産を引き継いでほしい想いと一緒に、手続きもスムーズに行える遺言書の作成は終活の要です。遺言書を作成し、身近な誰かに伝えておいてください。また、相続人になる方は、手続きに入る前に遺言書の有無を必ず確認するようにしましょう。
行政書士:藤井利江子