はじめに

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。今回は野瀬大樹氏がお答えします。

10年前に新築で購入したマンションの住宅ローン控除が昨年終了しました。 一軒家購入に向けて貯蓄をしているところですが、住宅ローン金利がいずれ上昇すると思うと、繰上げ返済で負債を減らすか、5年前後に購入予定の新居の頭金用に貯めておくか、判断がつきかねています。また、小さい子供がいるので教育資金のことを考えると、手元の金融資産が減ることに不安があります。マンションはいずれ賃貸、もしくは子供に残したいので売却は考えておりません。アドバイスをいただければ幸いです。


【家族】夫、私ともに30代後半、1歳になる子供。世帯収入は1,000万円弱。
【住宅】平成19年築のマンション1LDK。独身時代に妻(私)が購入(名義もそのまま)。35年ローンで途中借り換えを行い、変動金利で、残債2,000万円ほど。
【貯蓄】投資信託、保険商品、財形貯蓄などを合わせて1,500万円弱。海外資産はほとんどなく、国内投信がメイン。
【将来】現在2人目の子供を検討中。どうしても現住居が手狭になるので、今の子供が小学校に上る前には一軒家の購入を希望。


貯めておきたい気持ちと、少しでも負債を減らしたい気持ちの両方があり、せめて繰上げ返済用の定期で貯めた100万円だけでも返済してしまうか、悩み中です。また、ターミナル駅の駅前徒歩3分の物件ということもあり、賃貸はともかく、どうにもならなくなった時以外にマンションの売却は考えていません。一軒家を購入するならマンションは売却したほうがよいでしょうか? 次の住宅は主人単独でローンを組んでもらう予定です。
(30代後半 既婚・子供1人 女性)


野瀬: 質問者の方の現状をおうかがいして思ったのは「とても恵まれている方だ」ということです。第一にフロー面ですが、お子様が1歳とのことですので、時短などで働いていると推察されるなかで、世帯年収が1,000万円近いのは非常に恵まれている世帯だと思います。

一方、ストック面に目を移しても、10年前にマンションを購入したとのこと。そして、広さと残債の金額から推察するに、都市部の便利な場所だと思います。今は株高と資材価格の高騰から、全国的に都市部のマンションは値上がり傾向にあるため、かなりの含み益を抱えていることが予想されます。

売却は考えていないとのことでしたが、この点は何かあっても大丈夫という安心感がでるのではないでしょうか。また仮に賃貸に出すとしても、ローン返済額以上の家賃が取れると思います。付け加えると貯金などが1,500万円というのも悪くはありません。

確かに30代後半ならば、もう少し貯金がほしいところですが、すでに自宅を持っていることを考えると、この貯金額は及第点といえます。

資産状態が有利な状況なら「奇策にはでない」

さて、このような状況においては、どのような資産形成を目指すべきなのでしょうか?

私はゲームオタクであると同時に、ミリタリーマニアでもあります。そのため、戦争に関する書籍をよく読むのですが、戦争の戦略における大原則として「勝っている時は奇策にはでない」というものがあります。

つまり有利な状態であるときは普通にしていれば勝てるので、あえてリスクの高い行動をとる必要はないということです。

質問者の方も、世間一般よりも有利な資産状態にある以上、奇策をとる必要はありません。もちろん、何億もの資産を築きたいと思うのであれば話は別ですが、おうかがいしている状況を考えると王道をとるのがよいかと思います。

繰上げ返済の種類は2つ

質問者の方が仰られるように、将来的に金利が上昇する可能性は高いと思います。上がるというよりは、今が低すぎるので「今より下がることはない」と言ったほうが正しいでしょうか。

そういう金利上昇局面を考えると、確かに繰上げ返済はメリットがあります。

繰上げ返済には、以下の2種類の方法があります。

(1)ドカンと払ってその分返済期間を減らす、期間短縮タイプ
(2)ドカンと払って毎月の返済額を減らす、返済額圧縮タイプ

特に(1)の期間返済タイプは金利負担を減らす効果が高いため、多くの方が行う繰上げ返済は、こちらのタイプです。質問者の方も100万円繰上げ返済をすれば、返済期間が短縮され、金利も将来数十万程度軽くなるでしょう。これは多くの人が行っているまさに「王道」といえます。

では、この「王道」通り、これから先もどんどん繰上げ返済をやっていくべきでしょうか?

これは私の個人的見解ですが、世間の雑誌などでたまに特集されているような爆発的な金利上昇はないと考えています。

なぜなら、そんなことをすれば政府が返す借金の金利負担も増えるからです。

おそらく今後起こり得るのは、徐々に徐々にインフレを起こすことで政府の実質的な借金を減らし、かつ政府の負担にならない程度に、こちらも徐々に金利が上がってくる……という状況ではないでしょうか?

インフレに備えたポートフォリオとは?

そう考えると、私たちが目指すべきはどんな資産ポートフォリオでしょうか。

極端な話をすれば「政府と同じ資産ポートフォリオ」を目指すのが一番よいでしょう。

なぜなら、政府が自らが不利になるような政策は採らないからです。

そして政府と同じポートフォリオとなると、それは「巨額の優良資産と、それを上回る巨額の負債(借金)」ということになります。 将来的にインフレがあると、それは実質的な借金の減少という効果を生むでしょう。

そして資産価格はインフレにより上昇するので、一番お得なポジションになるということです。もちろん政府と我々個人を同列に語ることはできません。ただ、大きな方向性としては間違いないでしょう。

そして質問者の方がまさに「大きな資産(マンションと預貯金など)と、大きな負債(住宅ローン)」という、政府と同じポートフォリオといえるので、生活費を切り詰めてまで積極的に繰上げ返済を続ける必要はないと思います。

保有している資産(マンション)が優良な物件と推察されるのでなおさらです。

預貯金及び投資信託などの合計が1,500万円程度とのことですので、うち投資信託を除いた預貯金が占める割合は800~1,000万円程度でしょうか。これからお子様二人の教育費などで出費がかさみ、また一軒家の頭金が必要になることを考えると、最低1,000万円くらいの預貯金はキープしておきたいところですね。

となると100万円や200万円ならよいですが、これからも定期的に繰上げ返済をするかというと少し疑問です。マンションは賃貸に出し、その家賃収入でマンションのローン返済を行うとよいでしょう。

結論として「王道ともいえる繰上げ返済は期間短縮タイプでOK。ただし、現状の預貯金額を考えると100万から200万程度でしばらく様子を見るべき」といえます。

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