はじめに

日本株への投資の場合、個別銘柄は約4,000にも上るとされます。この中から個人投資家が自分で考えて投資対象を選ぶのは大変そうですね。このため、株式投資のセミナーなどでは、推奨銘柄の話にグッと関心が高まるのが常です。

これに対してFXの場合、投資対象は「通貨ペア」と呼ばれますが、マネックス証券のFX PLUSの場合で16種類です(2022年5月末現在)。通貨ペア数が多い取引所でも70種類強なので、これだったら数が少なく、迷えず選べそうと感じるのではないでしょうか。FXは通貨ペアも少ないから、銘柄の選択(通貨選択)もシンプルで簡単そうと思ったあなたが、結果的に「失敗」しないように、FXの通貨選択の基本的な考え方について、今回は説明したいと思います。


ドルストレートとクロス円

FXで主に取り扱いのある通貨ペアは限られるため、迷うことはないと思うかもしれませんが、いざとなると、米ドル/円は馴染みもありますが、やはりみな外国の通貨なので、そう簡単に選べないかもしれません。ですから、この通貨ペアをさらにいくつかに分類してみるといいかもしれません。

たとえば、対円での取引と対米ドルでの取引。前者をクロス円と呼び、後者はドルストレート(またはストレートドル)と呼ばれます。ちなみにユーロの場合は、ユーロ/円がクロス円、そしてユーロ/米ドルがドルストレートということになります。

この場合、ドルストレートは米ドルとの直接の取引なのでわかる気がするけれど、クロス円とはどういう意味か、と思う人もいるかもしれません。たとえば、ユーロ/円の場合、ユーロの対円での取引ではありますが、実質的にはユーロ/米ドルと米ドル/円といった2つのドルストレート取引の「かけ算」によって求められた相場です。

一例として、2022年6月10日の終値は、ユーロ/米ドルが1ユーロ=1.05212米ドル、そして米ドル/円は1米ドル=134.367円でした。この2つのレートを「かける」、つまり「クロス」すると141.37円になります(注.:マネックス証券FX PLUSのレートを参照)。だからクロス円ということになるわけです。

先進国通貨と新興国通貨

ところで、このクロス円は基本的には米ドル/円の影響を受けて、同じ方向に動くことが多いと言えます。ただ動きの程度は、通貨によって大きな差が出ることがあります。とくにユーロ、英ポンド、豪ドルといった先進国通貨と、南アフリカランドやトルコリラなどの新興国通貨では、変動率(ボラティリティ)に著しい差があります。

図表は、マネックス証券、FX PLUSのレートをもとに、いくつかの通貨ペアについて年間変動率を計算したものです。この場合の変動率は「(年間の高値ー年間の安値)/年末終値」で計算しています。

これを見ると、2020年の場合、米ドル/円、ユーロ/円の変動率が10%程度だったのに対し、南アランド/円はその3倍、トルコリラ/円に至っては5倍近くにもなっていました。このように、同じ対円取引のクロス円でも、新興国通貨のクロス円は全く違った位置付けになるでしょう。

以上のように、米ドル/円以外について、まずはクロス円とドルストレートに分けてみる。その上でクロス円の中でも新興国通貨はまた別に分けてみる。このように分類した上で、自分に合った投資対象、通貨ペアをさらに絞り込んでいく−−それが株式投資の銘柄選択に当たる、FXにおける通貨選択の基本的な流れということになるでしょう。

例えば、2021年から2022年にかけて米ドル/円は大きく上昇しました。その中で、自分も米ドル買い・円売りのポジションを持ったとしましょう。この局面では、米ドルの金利が円の金利より高かったので、このポジションは基本的に相場の値上がり益と金利差収入(スワップポイント)の2つの利益を狙えるものだったでしょう。

もちろん、米ドルが下がることもあり、その場合米ドル買いに損失が発生する可能性もあるでしょうが、金利差利益、スワップポイントは、差し引きの損失を抑制する効果があるでしょう。これは、第3、4回で取り上げたことでした。

ところで、そんな米ドル/円の買い以外に、もう一つポジションを持つとしたら。例えばドルストレートなら、ユーロ/米ドルと豪ドル/米ドルのどちらが良いか。米ドル高の見通しの中では、ユーロ安、豪ドル安を予想するわけですから、基本的にはユーロ売りか豪ドル売りのポジションを持つことになります。

それなら、普通は豪ドル売り・米ドル買いより、ユーロ売り・米ドル買いのポジションを選択するのではないでしょうか。連載の第4回でも取り上げたように、ユーロは世界屈指の低金利通貨なので、下落相場で売る場合にこそまさに強みを発揮するということがありました。

そして、比較的金利が高く値動きの大きな新興国通貨に、極力リスクを抑えた形でチャレンジするというのも一つの考え方です。それは、連載の第5、6話回で取り上げたように、高い金利が魅力の新興国通貨ほど、相場の値下がりリスク、いわゆるキャピタルロスのリスクが高いので、相場の割高安の見極め、またレバレッジを低めにするなどのリスク・コントロールが重要だからです。


これまでの連載で述べてきたことは、それぞれが関連していると言って良いでしょう。株式投資などにはないFX取引の特徴は、それを正しく理解しないと、むしろ取引の損失、「失敗」を招く危険があります。FXの「失敗」には全て理由があるということについて、この連載を通じて理解を深めていただければ幸いです。

さて、次回からはそれぞれの通貨の特徴についてさらに踏み込んで解説します。それらを参考にすることで、より通貨選択がしやすくなることはもちろん、さらにFXの理解が高まり、「間違いだらけのFXトレード」からの卒業を目指していきましょう。

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