はじめに

テレビに出た時は億り人だったかもしれないけれど……

株式や債券などの投資によってちょっとした資産を作る人がいます。皆さんにもその一人になってもらいたいです。

この話をする前に、注意してほしいことがあります。多くの人にとって、株式投資は面白くなって熱中しすぎてしまうものだからです。いろんなことを考えて、投資をするとお金が増えたり減ったりする。スリルもあり面白いです。時には1か月分の給料をさっと得ることもできる。リアルなゲームのようです。だから、心を奪われます。

会社員なのに、仕事時間もスマホで株価を度々チェックするようになったら黄色信号です。投資に気が取られて、真面目に働けば、きちんと給料をもらえる正業の仕事が生半可になったら元も子もありません。

3億円以上の資産を、株式や外国為替、商品先物などの金融市場の取引で手にする人もいます。しかし、手堅い投資では、よほどの元手がある人以外は手が届きません。

投資したものが短期間で2倍になるということは、ごくごく稀なことです。元手が200万円程度では、2倍で400万です。倍々に増えて、800万、1600万、3200万、6400万、1億2800万、2億5600万。3億円近い資産を作るには、奇跡的なことが7回続けて起こらなければ実現しないのです。

また、「億り人」という言葉があります。こちらは株式などで1億円以上の資産を作った人のことを言います。一時期、FXやビットコインなど、相当リスキーな運用をして儲けた人のことをメディアでもてはやしました。一攫千金系の成功物語のように扱いました。今でも、それが実現可能だと思っている人も少なくありません。

日本全国の何千万人の人が、1億円がほしくて何万円も出して宝くじを買うわけですからうらやましいのはわかりますが、まずは、億り人になった人はごくわずかだということを忘れないでください。

ハイリスクな運用に手を出した人の大多数は、手持ちの金がほとんどゼロになってしまった。それならまだいいほうで、借金を背負った、中には借金に耐えられなくて自殺したという例も少なくありません。

私がメディアで見かけた億り人は、資産1億円の億り人と紹介されていたのですが、深く考え判断して投資して儲けたというよりも、普通の人があれよあれよという間に資産が増えただけに見えました。あえていうと、たまたま儲かってしまったのです。投資の能力があったわけでも、先見の明があったわけでもありません。ビットコイン(暗号資産)で1億円持ってるとのことだったので、私は心配しています。暗号資産はその後、乱高下したからです。1億円はあっという間に3000万や5000万、いやそれ以下になってしまったかもしれません。

あぶく銭ですね。そして、泡は例外なく弾けて消えていくものです。

投資は宝くじでも博打でもない

日本では1990年初頭までのバブル経済の時に、不動産価格が上がって豪勢な生活をした人がいました。住んでる一戸建ての価値が2億円と聞いて、年収500万円の人は驚いたものです。しかし、それは長く続かなかった。

全部弾けた。しぼんでしまった。これもあぶく銭だったわけです。

かつて、NTTが東京証券取引所に初上場した時に、一般公募で売られた株式は119万円。それが取引開始後あっという間に300万円を超し、318万円まで値をつけた。多くの人の欲望に火をつけました。株式ブームになるのもわかります。300万円を超した時には、NTT株は500万になるという本が何冊も出ました。それを信じて買った人は、ひと財産をなくしました。その後NTT株は急激に下がっていったからです。

私の知り合いは300万を超したNTTの株式が240万くらいに落ちた時に、ここまで落ちたらもう落ちないだろうと、10株買いました。2400万円です。しかし、その2400万円から増えることはまったくありませんでした。その後もズルズルと落ちていき、知り合いがもうダメだと10株を手放した時には1200万円になっていました。半分になるのにそれほど時間はかかりませんでした。

私は皆さんにお金を儲けてほしいと思ってこの本を書きました。

しかし、一瞬だけ儲かった気分になるあぶく銭系の話をここでしようと思いません。

手堅く運用して5000万円を手にした人が、もっと金がほしい。3億はほしいと思ったとします。それには相当にリスキーな投資をしないと手が届きそうにありません。

それでも、手にした5000万円をかけて3億円にしたいですか? さらに、なんとか成功した3億円をかけて、10億を目指す。そんなことしたいでしょうか?

テレビのクイズ番組でよくありますが、あなたが出演者なら、クイズに正解して、すでに手にした50万円をかけて、100万円もらえる次のクイズに挑戦しますか? 
外れたらゼロです。手にした100万円をかけて200万円もらえるクイズに挑戦しますか? 外れたらゼロです。クイズは難問ばかりです。

そんなことに挑戦するのは、テレビ番組を盛り上げるために出演しているタレントさんだけではないでしょうか?

ハイリスクな投資とは、5000万円、1億円という大金をかけて同じようなことをしているわけです。ゼロにはならなくても数千万円を減らすのはあっという間です。そして、一度、損をすると、損した分を取り返そうと、倍返しだとばかりにさらにリスキーな投資の深みにはまっていくものです。そんな時には、冷静な判断もできなくなっていて、とどのつまりはお金をさらに減らしてしまうのです。

私は銀行員時代に間違った取引をしてしまい、一瞬のうちに銀行にそこそこの損失を負わせた経験があります。めちゃくちゃ叱られました。当たり前です。自分の年収の何倍もの損失を自分のミスで負わせたわけですから。その後も、数千万、数億円が一瞬のうちに金融市場の中で溶けていくのを何回も見てきました。

世の中には宝くじで3億円を手にした人がいることは知っていても、自分も確実に手にできるとは誰も思わないでしょう。たまたま運が良かった人の成功例を他の人が真似てうまくいくのであれば、日本中みんな大金持ちです。

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