はじめに

「文章を書くことがストレスです」
「文章を書くことが苦手で……」
「文章を書くのに時間がかかります」

そんな「文章アレルギー」の人は多いのではないでしょうか? しかし、文章を書けるかどうかは、仕事の成果や周囲の評価に大きく関わります。

そんな文章に関する「困った」にやさしく応えてくれるのが、『そもそも文章ってどう書けばいいんですか?』を著書にもつ、山口拓朗さんです。

この連載では、これまでライターとして3000件以上の取材・インタビューを経験した中から導き出した、「書くことが嫌い」を「書くことが好き」へと変える、文章作成のコツを教えてもらいます。


文章を書く人にとっての名コーチは「締め切り」である

文章を書くときに「集中力が上がらない」「ダラダラと時間がかりすぎてしまう」という悩みをお持ちの方にオススメの方法があります。それは「締め切りを設定すること」です。

たとえば、「今から20分以内に◯◯の文章を書かないと、上司から大目玉を食うことになる」――そんな状況であれば、あなたはなんとかして20分以内に原稿を書き上げようとするでしょう。その20分間の集中力は、相当に高いはずです。

締め切りが迫ってお尻に火がつくと、神がかり的な力が働く。これは25年以上もの間、文章を書くことを生業にしてきた筆者の経験とも重なります。仕事開始は午前9時。その日の17時までに雑誌の原稿を3本書き上げなければいけない。「そんなの不可能だ!」と思いながらも、泣き言を言っている暇はなく、パソコンのキーボードをたたき始める。そうしたときの集中力の高さときたら自分でも驚くほどです。

原稿執筆に没頭し……16時59分頃、3本目の原稿を編集者にメールを送信しているのです。この集中力は果たしてどこから来るのか? 答えは明白です。そう「締め切り」の存在です。

「時間に余裕がある」と思うと、人は本気モードになりません。集中力が上がらないまま(頭の回転数が上がらないまま)ダラダラと文章を書いてしまうのです。

「デッドライン・ラッシュ」を逆手に取る

「仕事の量は、完成のために与えられた時間をすべて満たすまで膨張する」

これは、パーキンソンの第1法則と呼ばれるものです。この法則は、そのまま文章作成に置き換えることができます。どれだけ書く時間がたっぷり用意されていても、私たちはその時間をすべて使い切ってしまうのです。

締め切り直前になって爆発的にやる気が出る状態のことを「デッドライン・ラッシュ」と言います。人は誰もが締め切り前にスパートをかける性質をもっているのです。

先ほどの筆者の経験を思い出してください。編集者に最後の原稿を送ったのは16時59分でしたね。では、この締め切りがもし16時だった場合、どうなっていたでしょう。間に合わないのか? 答えはノーです。おそらく筆者は15時59分に原稿を送っていたことでしょう。つまり、デッドライン・ラッシュとは「人間の怠け癖」の裏返しでもあるのです。

その性質を逆手に取って、集中力を高めたいときは、強制的に締め切り(=デッドライン)を設ける作戦が有効です。おもしろいもので、締め切りを設けて短時間で書いた文章と、締め切りを設けずにダラダラと書いた文章の質はさほど変わりません(筆者の肌感覚として)。むしろ、短時間で書いた文章のほうが質が高まることも珍しくありません。高い集中力がもたらす恩恵と言えるでしょう。

デッドラインの設定方法

どんな文章を書くときにも、必ず締め切り(デッドライン)を設けましょう。ポイントは、自分が「これくらいの時間で書けそう」と思った時間から2割ほど時間を短縮して設定することです。1時間で書けそうと思ったら50分、30分で書けそうと思ったら25分、15分で書けそうと思ったら12分を締め切りとします。

建前上での締め切りでは意味がありません。短めに設定した締め切りは、まさしくデッドライン(死線)。そこを超えたら死(!)が待ち受けています。実際にタイマーをかけて緊張感をもたせましょう。そして、何が何でも締め切りを死守しましょう。

前述の通り、そもそも人間には怠け癖があります。「この文章なら1時間で書けそう」と思った時点で、その1時間に「余裕をもたせている」ケースがほとんど。だから「2割ほど短縮しよう」なのです。もちろん、より負荷をかけられそうであれば「3割短縮」「5割短縮」にもチャレンジしましょう。

最初はデッドラインを超えてしまうケースもあるでしょう。しかし、そこで落ち込む必要はありません。人には適応能力があります。くり返しチャレンジすることで、締め切りをクリアする回数が少しずつ増えていきます。「速く書けるようになった!」という実感は、あなたに大きな自信をもたらすでしょう。

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