はじめに
ビジネスには賞味期限がある
日本の昔の経営者にはこういうチャレンジャーがたくさんいました。
新しいマーケットを相手にした商売にはしばらく競合がいません。そのため、価格競争は起こりにくく、企業は大きな利益を上げることができます。しかし、マーケットが大きいことが競合にバレるとたちまち有象無象が参入してきて価格競争が始まります。つまり、いい時は永久には続かない。利益が上がっているうちに次の投資をする。これを怠るとたちまち儲けの源泉を失って経営が行き詰ることになります。
極めて残念なことに、ソニーグループはもうエレクトロニクス産業がメインでもなければ、モノづくりの会社でもありません。随分前から金融事業でしか儲からない会社になってしまいました。ウォークマンのような真の不確実性を連続で当て続けるのは、ソニーのような国際的な大企業ですら難しいという証拠です。
例えば、世界で初めて携帯電話を発売したのはアメリカのモトローラ社です。1983年のことでした。あれから約40年で携帯電話はスマホになり、今や生活必需品となりました。あの時点でこんな未来が来ることを誰が予想したでしょう。
しかし、このモトローラ社は2012年にグーグルに買収され、その2年後に再度売りに出されました。現在はチャイナのレノボの傘下になっています。携帯電話のパイオニアがこの体たらく! 一体何があったのでしょう。
ソニーもモトローラも自らが新しく切り開いたマーケットで当初は莫大な利益を上げていました。ところが、その流れはしばらくすると勢いを失ってしまいました。実は、ビジネスには賞味期限(=ビジネスサイクル)があるのです。だから、儲かるからいいやと既存の商売の上で胡坐をかいているのは危険です。儲けの賞味期限が切れる前に、次の真の不確実性にチャレンジし、新しいビジネスを作らなければいずれ儲けの源泉は失われます。ソニーやモトローラはその努力を怠っていた。いや、少なくとも中小企業だった頃のチャレンジ精神を忘れていた可能性はあります。そして、非常に残念なことに、最近このビジネスサイクルがどんどん短くなってきているのです。
今儲かっているビジネスは永遠ではない
フォードがアメリカで自動車の大量生産に成功したのは1913年です。それから約60年後に日本車がアメリカ市場を席捲するまで、アメリカの自動車産業は盤石でした。ソニーがウォークマンを開発したのが1979年、ウォークマンの市場が崩壊するキッカケとなったiPodの発売は2001年からです。ざっくり20年ぐらいは持ちました。携帯電話がスマホになる前、一世を風靡したiモードが世に出たのは1999年。それが駆逐されるキッカケとなったグーグルのアンドロイドが世に出たのは2008年です。たった9年しかありません。
インターネットによって情報が世界中に瞬時に伝わるようになった現在、真の不確実性にチャレンジして成功しても、そのビジネスはせいぜい10年ぐらいしか続かないようになってしまいました。いや、これからはもっと短くなっていくかもしれません。いずれにしても、いい時は長くは続かないし、今儲かっているビジネスは永遠ではない。だから、調子のいいうちに先のこと、先の先のことを考えて手を打たなければならない。具体的に言えば、儲かったお金を次の不確実性に再投資するか、いっそのこと貯め込んで引退してしまうかを早めに決めなければならないのです。