はじめに
9年間で87%減価する通貨
でも、そんなにおいしい話だったら、誰でも投資するはずです。債券の場合、大勢の投資家が一斉に飛びつき買いをしたら、債券価格は値上がりするので、その分だけ利回りが低下します。
つまり、年39.39%もの利回りが提示されているということは、それだけ、この債券に対する需要が少なく、結果的に高利回りになっているだけと考えることができるのです。
では、どうしてここまで利回りが高いのに、人気がないのでしょうか。
それはトルコリラという通貨の持つリスクが嫌気されているからです。これは、トルコリラ/円の為替レートをたどると一目瞭然です。2013年7月時点のトルコリラ/円は、1トルコリラ=57円前後でした。それが2022年8月時点では、1トルコリラ=7.4円前後で推移しています。この9年間で、トルコリラは円に対して87%も減価したことになります。
もちろん年39.39%だから、あくまでもトルコリラ建てではありますが、5年間持ち続ければ、利回りだけで200%近いリターンが実現します。
だとすると、さらにこれから先、トルコリラが対円で87%減価し、1トルコリラ=0.96円になったとしても、十分にリターンが得られるのではないかとも考えられるのですが、他の問題も生じてきます。
それは、トルコリラ・ショックのような通貨危機的状況に陥り、トルコリラがほぼ無価値になるリスクがあることです。
実質金利に注目する
なぜ、金利が高いのに、為替がこれだけ減価しているのかというと、トルコの歴史的な物価上昇にあります。2022年7月時点の消費者物価指数の前年同月比は79.6%です。トルコの政策金利は年14%ですから、名目金利から物価上昇率を差し引いた実質金利は、▲65.6%にもなります。
つまりトルコリラを保有していると、1年でその価値が65.6%も目減りするのです。このような通貨を喜んで保有する投資家はいないでしょう。結果的にトルコリラは外国為替市場で売り叩かれ、トルコリラ安に歯止めがかからなくなっているのです。
いくら表面的な利率が高くても、インフレが激しく、物価上昇率を加味した実質金利が極端に低い国の通貨は売られ続けます。
その先にあるのは通貨の破綻です。かつて壮絶なインフレによって流通廃止になった通貨がありました。アフリカのジンバブエがそれです。
ジンバブエではジンバブエ・ドルという通貨が発行されていました。最初の発行は1980年で、当初の為替レートは1米ドル=0.68ジンバブエ・ドルでした。
ところが2000年から国内情勢の不安でインフレが起こりました。その詳しい背景については省略しますが、インフレ率の推移を追うと、2000年が56%、2003年が385%、2006年が1281%、そして2008年には35万5000%という、想像を絶するハイパーインフレに見舞われたのです。結果、2009年には100兆ジンバブエ・ドルが発行されるまでになりました。
欧州大国のひとつであるトルコの経済が、ここまで悲惨な状態に陥ることなど想像したくありませんが、今のトルコのインフレ率を見て、ハイパーインフレの一歩手前まで来ているように感じるのは、私だけではないでしょう。