はじめに

早いもので、今年も残すところあと3ヵ月を切りました。起業されている方や副業をされている方は、今年の収支や税金が気になってくる時期ではないでしょうか。

節税のために経費をたくさん使いたいという話もよく聞きますが、経費を使えばその分、お金も減ります。税金は安くなるかもしれませんが、不要な出費で手元資金が心許なくなっては元も子もありません。そこで、今回は“消えないお金”で節税する方法をご紹介します。


「お得な共済」は2種類

従業員20人以下の小規模な事業を営む個人事業主が加入できる小規模企業共済は、個人事業主の退職金代わりとなるものです。その掛け金の全額を「所得控除」として税金計算のときに差し引くことができます。

掛け金は1,000円から7万円まで500円刻みで設定でき、今からでも年間払いをすれば、最大で7万円×12ヵ月分=84万円の所得控除を受けることができます。所得が300万円程度の場合、掛け金84万円で所得税と住民税から合わせて約17万円も節税できることになります。予定利率は年1%程度ですが、「節税額=利息」ととらえれば、投資効率はよいのではないでしょうか。

払い込んだ掛け金は基本的に、廃業時の退職金代わりとして、あるいは65歳以上になったときに老齢給付金として受け取ることになります。自己都合で解約する場合には、納付期間が20年以上でないと支給割合が100%を超えないため、元本割れとなってしまいます。

事業を辞めるときまで長くかけ続ける予定なら、小規模企業共済はかなりお得な制度といえるのではないでしょうか。しかし、これはあくまで小規模企業者のための制度であり、残念ながら、サラリーマンの副業の場合には加入ができません。

一方、1年以上継続して事業を行っている中小企業者が加入できるのが、経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)です。取引先が倒産した場合の連鎖倒産などを避けるため、最高8,000万円の貸し付けを受けられる制度で、副業であっても個人事業主としての実績が1年以上あれば加入できます。

こちらは月額の掛け金が最大20万円となり、累計で800万円に達するまで積み立てることができます。年間払いをすれば最大で240万円分を事業の「必要経費」として計上することができます。所得が500万円程度となる場合、240万円の必要経費を計上すれば、所得税と住民税から合わせて約65万円を節税できることになります。

必要経費として計上するには、確定申告の際に「中小企業倒産防止共済掛金の必要経費算入に関する明細書」を作成し、税務署に提出する必要があります。任意解約の場合でも、掛け金の納付期間が40ヵ月以上であれば、払い込んだ掛け金を全額受け取ることができます。

解約時は手当金が課税対象に

想定外に大きく利益が出てしまった年などは、経営セーフティ共済に加入すれば、年間掛け金が大きいため、節税メリットも大きくなります。ただし、あくまでも連鎖倒産防止のための制度ですので、掛け金は運用されません。40ヵ月以上加入しても、戻ってくるのは元本のみです。

また、掛け金が800万円となった時点で掛け金の請求が止まります。継続して掛け金を必要経費として計上したい場合は、いったん解約してから再度加入する必要があります。再加入後の6ヵ月間は共済金の貸し付けを受けることができません。

ここで問題となるのは、解約手当金の取り扱いです。満額800万円は事業所得の収入金額として税金計算されることになります。過去の経費分が、すべて収入として一度に計上されるのです。ほかに収入がなくても、所得税と住民税を合わせて約200万円の税金がかかることになります。

したがって、経営セーフティ共済を利用する場合は、利益が多く出る年に掛け金を多めに払い込んでおき、利益の少ない年に解約するのが得策といえそうです。

小規模企業共済は副業サラリーマンの加入ができないうえ、本来の目的以外での「任意解約」(事業を継続したまま解約したい場合など)になると、元本割れしないためには20年以上の加入が必要です。使い勝手が悪いように感じますが、個人事業主の退職金としての制度ですので、掛け金を運用してもらえるというメリットがあります。

さらに小規模企業共済には、本来の目的である「事業廃止時の退職一時金」として解約する場合、税金計算が「退職所得」として扱われるというメリットがあります。また、事業廃止で解約する場合には、加入期間が20年未満でも共済金を受け取れるため、元本割れもありません。

こちらの場合、どのくらいの節税ができるのでしょうか。さきほどの経営セーフティ共済の例と比較しやすいよう、800万円の掛け金を20年かけて積み立てたとします。すると、「退職所得控除」が800万円分受けられますので、解約時に受け取る共済金800万円には税金がかからないのです。経営セーフティ共済の場合と比べると、税額の差は歴然です。

小規模企業共済も、経営セーフティ共済も、どちらも国の共済制度です。事業を営み、利益が出ている場合には節税メリットがあるため、定期預金よりも利回りはよいのではないでしょうか。将来の収支計画も見据えながら、ご自身の事業にあった共済を選択して、節税しながら不測の事態に備えることができる制度を活用してください。

(文・中村愛)

この記事の感想を教えてください。