はじめに

Q.感覚過敏がある人は発達障害なのですか?

A. 感覚過敏の定義は曖昧です。発達障害の分野で使用されることが多い言葉ですが、精神科領域で使うこともありますし、麻酔科、緩和ケア、介護の分野で使われることもあります。

アメリカ精神医学会の診断基準DSM-5では、自閉症スペクトラム(ASD)の診断基準の1つとして「感覚入力に対する敏感性あるいは鈍感性、あるいは感覚に関する環境に対する普通以上の関心」という項目があげられています。ASDの96%に感覚の問題があるという研究もあります。

このように書くと、感覚過敏がある人は発達障害、特に自閉症スペクトラムのように受け取られる方もいらっしゃるかもしれませんが、発達障害のすべての方に感覚過敏があるわけではありません。

また、うつ病や自律神経失調症などによって感覚過敏の症状が出ることもありますし、トラウマや精神的に大きな影響があった出来事を機に感覚過敏になる場合もあります。

また、交通事故などで脳へダメージを受けた高次脳機能障害の人も、感覚の過敏さを訴える場合が少なくありません。

以上のように、すべての発達障害の方に感覚過敏の症状があるわけではなく、また、感覚過敏の症状が見られる病気や疾患はさまざまですので、感覚過敏だからといって必ずしも発達障害だとは言えません。

専門家の視点から

大切なのは周囲が「感覚過敏」や「発達障害」といったラベリングをすることではなく、本人の「困り」を適切にとらえることです。これらの名称は「困り」を適切にとらえるためのあくまでもヒントです。

また、一概に感覚過敏といっても症状は実に多様です。また環境によっても過敏性の出現の仕方は異なりますので、本人の「困り」を聞き取ること、そして信頼関係を構築して「困り」を表出しやすい環境を整えることが重要といえるでしょう。

Q.感覚過敏は治らないの?

A. ときどき「感覚過敏が治った」「おとなになったら気にならなくなった」という体験を語ってくださる人がいます。僕自身が今、16歳なので、もしあと何年かして感覚過敏によるつらさがなくなったらどんなにいいことかと期待してしまいます。

しかし、逆に「おとなになるにつれ、過敏が強くなっている」と語る人もいます。どちらが正しいのでしょう?

多分、どちらも正しいのでしょう。発達障害の治療薬や、うつ病などの治療薬を飲んで、感覚過敏がなくなる(やわらぐ)ことはあるようです。脳神経の興奮を抑える薬を飲んで過敏さが減ったと話してくれる体験者の人もいます。

また、成長とともに感覚過敏とうまくつきあえるようになったことで、感覚過敏はなくなっていなくても、なくなったように感じる人もいます。

たとえば僕の場合も成長するにつれ、「自分はこのシーンでは聴覚過敏で体調が悪くなるからイヤホンをつけておこう」とか、「このレストランのニオイは苦手だから行かないでおこう」と、自分で行動を調整できるようになりました。

この、原因となるものをあらかじめ避ける行動は、「感覚回避」と呼ばれることもあります。このような感覚回避行動によって、過敏になる状況が減ってしまうから、「治った」と感じる場合もあるのでしょう。

僕は子どもの感覚過敏でつらいのは、自分で選べる選択肢が少ないことだと思っています。学校や家族のルールがあり、子どもはそれに従わなければならない。

一方、おとなになると、自分で選べることが増えます。本意ではないかもしれませんが、感覚過敏がつらくて通勤して働くのは無理だからフリーランスとして働こうとか、この素材の服は苦手だからやめておこうとか、自分の状態や過去の経験から自分の道を選ぶことができます。

その選択肢のある状態が「感覚過敏が治った」という言葉につながるのかなと思います。もちろん、本当に過敏さがなくなった人もいるようです。慣れや折りあい、「あきらめ」も含めて、過敏さがおだやかになることがあればいいのになと思います。

それとは逆に、「どんどん感覚過敏がひどくなっている」とおっしゃる人もいます。感覚過敏も発達障害の症状の1つとして先天的にある場合もあれば、うつ病やPTSD などの精神疾患などで後天的になる場合もあります。おとなになってから感覚過敏になった場合は、どんどんひどくなっていくと感じることもあるのではないかと思います。

もう1 つは、逆に感覚過敏を認知して、より感覚が研ぎ澄まされて過敏になっていく場合もあります。僕もその傾向があることは否定できません。

感覚過敏という言葉に出会って、心が軽くなったのは事実ですが、もし、感覚過敏という言葉を知らなかったら、「気のせい」「気にしすぎ」で処理できたこともあったかもしれません。

感覚過敏が治るか治らないかについては、「わからない」というのが現実です。でも、過敏さを緩和できる方法は遠くない日に実現できると思っています。その方法を発明する人間はやっぱり僕であったらいいなと思っています。

専門家の視点から

「感覚過敏」は病気ではなく、あくまで特性ですので、治る/治らないの軸で議論することはできません。ただ、環境を整備することで感覚の過敏性は緩和できます。

たとえば、ニオイに過敏性があっても、ニオイのしない空間では困りは発生しません。このように、工夫や配慮で環境にアプローチすることが重要となります。そのためには、感覚過敏の当事者だけでなく、社会全体が「感覚過敏について知ること」が何より大切なのではないでしょうか?

※1)岩永竜一郎『自閉症スペクトラムの子どもの感覚・運動の問題への対処法』東京書籍/2014

加藤路瑛(かとう・じえい)
2006年生まれ。株式会社クリスタルロード代表取締役社長。感覚過敏研究所所長。聴覚・嗅覚・味覚・触覚の感覚過敏があり、小学生時代は給食で食べられるものがなく、中学生になると教室の騒がしさに悩まされ中学2年生から不登校。その後、通信制高校へ進学。子どもが挑戦しやすい社会を目指して12歳で親子起業。子どもの起業支援事業を経て13歳で「感覚過敏研究所」を設立。感覚過敏の啓発、対策商品の企画・生産・販売、感覚過敏の研究に力を注ぐ。

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著者:加藤路瑛

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(この記事は日本実業出版社からの転載です)

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