はじめに

文藝春秋の松井清人社長が全国図書館大会の東京大会で、図書館側に異例の訴えをしたことが話題になっています。図書館に文庫の貸出をやめてくれないかというのです。

文庫といえば図書館の利用者にとっても読みたいコンテンツが揃っている人気コーナーなのですが、なぜ今、大手出版社の社長がそのような訴えをするのでしょうか。背景には縮小する書籍マーケットという業界の苦境があります。今、何が起きているのか、状況を探ってみましょう。


「文庫本の貸出をやめてください」の背景とは?

10月13日に開催された「全国図書館大会 東京大会」で文藝春秋社の松井清人社長が「どうか文庫の貸出しをやめてください」という訴えを行ったことがニュースになりました。背景には減少する一途の書籍市場という難しい問題があります。

書籍市場の中で文庫も年々市場が縮小しています。2014年から今年にかけての数字で見ると、金額ベースで毎年文庫市場は6%ずつ減少しています。

文藝春秋社にとってこれは死活問題です。実は文芸春秋社の収益の3割は文庫が占めていて、週刊文春などの雑誌収益を上回る収益の柱です。その文庫が年々、市場全体が縮小している。だからなんとかしなければいけない。それが社長発言の出発点です。

では図書館はそれとどう関係しているのでしょう。

図書館のせいで書籍が売れなくなってきたという議論は出版不況が始まった90年代から繰り返し行われてきていて、さまざまな分析も行われています。ちょうど今回の全国図書館大会でも、図書館と書籍の売れ行きに関する研究報告が行われました。

図書館は本の売れ行きにマイナスではない

図書館での貸出しと本の売れ行きにはマイナスの関係があるのか、それともプラスの関係があるのかというのがその研究の眼目で、結論としては少なくともマイナスの影響は与えていないというのが報告結果でした。

マイナスの効果というのは、図書館で本を無料で借りられるのだからわざわざお金を出して本を買う必要はないという人が増えること。それに対してプラスの効果とは、図書館に通ううちに本を読むという習慣が形成されて、その結果逆に本を買う消費者の数が拡大するということを指します。

それで、研究の結果は、どちらの効果もあるのだけれど全体で見ればすくなくともマイナスの影響の方が大きくはないということだったのです。つまり書籍市場の縮小は図書館が原因ではなく、むしろ別の原因で市場が縮小する中で、図書館があることでその縮小ペースが抑えられているというのが学術的な分析結果だというわけです。

しかし、それでも出版社が図書館に物を言いたくなるような現象があるのだと言います。

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